今回は中江さん
中江有里(なかえ・ゆり)
中江さん
女優、作家。扁桃(へんとう)炎にかかり、つらかった…。皆さまもどうぞお気を付けください。
味わい深い人の繋がり

 もう二十年ほど前になりますが、映画『風の歌が聴きたい』に出演しました。聴覚障害がある実在のご夫婦の物語が原作で、わたしはその妻役。ご夫婦には息子さんがいました。聞こえる子だった息子さんは、弱冠三歳にして両親の通訳代わり。小さな手を使って必死に喋(しゃべ)っていました。「なんと賢い子どもだろう」と感心していました。


 <1>丸山正樹『デフ・ヴォイス-法廷の手話通訳士』(文春文庫・702円)を読みながら、あの三歳の手話通訳士の彼のことを思い出しました。本書の主人公も家族の中で唯一聞こえる子だったからです。こうした聞こえない両親の元に生まれた聞こえる子を「コーダ」と呼ぶそう。 


 仕事も結婚も挫折した主人公は、唯一の特技を生かし「手話通訳士」になり「ろう者」の社会で起きた出来事に触れ、ある事件に巻き込まれていきます。「コーダ」という特異の身の上は「ろう者」と「健聴者」を繋(つな)ぐというだけでなく、それぞれの文化、社会を繋ぐ役割を果たします。小さなころからその場にいるみんなを繋いでいたあの三歳の彼、今頃どうしているのか、会いたくなりました。

 人と人を繋ぐ一冊として挙げたいのは<2>西村賢太対談集『薄明鬼語』(扶桑社・1,620円)。これがめっぽう面白い。作家田中慎弥氏との回は、芥川賞の受賞会見から意外に面倒な税務対策など、当事者ならではの話も興味深い。マツコデラックス氏との回では、マツコ氏がテレビの世界に入った覚悟を垣間見ました。どの対談も生々しく、相手の懐にどんどん入っていく西村氏の異能ぶりが際立ちます。ライブで対談を聞いているよう。対談ではあるけれど、自分もその場に参加している鼎談(ていだん)気分になりました。


 古びた洋館に暮らす人々を描いた<3>三浦しをん『あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社・1,620円)。帯には「ざんねんな女たちの、現代版『細雪』」とあります。母と娘、娘の友達とその知り合いという不思議な関係の女たちが共に暮らす…ただそれだけなのに、その日常が味わい深い。女たちの本音が強烈すぎて素敵(すてき)。この小説は視点がキーワード。読み終わって、あらためて本を眺めてみて「なるほど」と膝を打ちました。


 家族でもなく、いつ途切れるかわからない緩やかな繋がり、なんだか夢物語のようだけど、これならありかもです。

『デフ・ヴォイス-法廷の手話通訳士』
『デフ・ヴォイス-
法廷の手話通訳士』
丸山正樹
(文春文庫・702円)
西村賢太対談集『薄明鬼語』
西村賢太対談集『薄明鬼語』
(扶桑社・1,620円)
『あの家に暮らす四人の女』
『あの家に暮らす四人の女』
三浦しをん
(中央公論新社・1,620円)