今回は酒井さん
酒井 順子(さかい・じゅんこ) 
酒井さん
エッセイスト。仕事をしていると、料理欲がムラムラと湧いてきます。
料理と人生 賢く熱く

 バブル世代の働く女性の本棚には、必ず<1>向田和子監修『向田邦子の手料理』(講談社・1,728円)が一冊あると言われていて、かく言う私もその一人です。
向田邦子亡き後、妹の和子さんの手によって手料理が再現され、写真やエッセイ等と共に編まれたこの本。食べることに熱心で、手間暇かけずに美味(おい)しいものを作って振る舞うのが好きだったという向田邦子の生活、ひいては人生そのものが見えてきます。
私達はこの本を読んで、料理の一つもできる「いい女」を目指したのでしょう。
 昭和最後の年に刊行されたこの本は、今も版を重ねています。
食べることと生きることをスマートに楽しむ、というライフスタイルは、その後もずっと支持されているのです。

 向田邦子はまさに<2>『聡明(そうめい)な女は料理がうまい』を地で行く人であったわけですが、この名コピーは昭和51年に刊行されベストセラーとなった桐島洋子の本のタイトル。
こちらは近年、アノニマ・スタジオから復刊(KTC中央出版発売、1,728円)されています。
 働く女であり、母親であり、また恋する女でもある著者が記すと、料理が“主婦の義務”から解放されるのが、痛快なところ。


読むうちに読者をやる気にさせるのですが、その時の「やる気」とは、単に料理を「作る気」ではありません。旺盛に生きよう、という気持ちがかきたてられる本なのです。

 しかし料理は、聡明な女だけのものではありません。昭和の名料理エッセイといえば<3>檀一雄『檀流クッキング』(中公文庫・720円)もあります。こちらも最近、カラー写真や未収録の原稿も収めた『完本 檀流クッキング』(集英社・3,132円)が、子息の檀太郎夫妻によって、新たな装いで登場しました。
 「料理が、食べることが、好きでたまらない」という熱情が、この本にはたっぷり詰まっています。のみならず、読むうちに国内あちこち、ポルトガル、韓国…と、各地を旅しているような気持ちにもなってくるのです。

 「断乎(だんこ)として、梅干しを漬けなさいと申し上げる」
 「檀の言うことを聞け」
 という明治最後の年に生まれた作家の断言口調は、このふわふわした時代においてはむしろ心地よく、食べることへの熱情は、世代も性別もそして国境をも越えるということを実感させられる本書。料理上手の生き方は、やっぱり面白いのです。

向田邦子の手料理
『向田邦子の手料理』
向田和子監修
(講談社・1,728円)
聡明な女は料理がうまい
『聡明な女は料理がうまい』
桐島洋子
(KTC中央出版・1,728円)
檀流クッキング
『檀流クッキング』
檀一雄
(中公文庫・720円)