今回は栗原さん
栗原 裕一郎(くりはら・ゆういちろう) 
栗原さん
評論家。バリ島へ行ってきました。ウルワツ寺院のケチャダンスがエンタメ化されていてすごかった!
機械と人間の距離

 昨年『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(ルイス・ダートネル著、東郷えりか訳、河出書房新社)という面白い本が出た。核兵器とかバイオハザードで人類がほぼ絶滅した後、生き残った人たちが廃墟(はいきょ)と化した地球で科学文明を一から立て直すにはどうすればいいかをマニュアル仕立てで説いた科学啓蒙(けいもう)書だ。  

 鉛筆について著者はこう書く。「地球上の誰一人として、この最も単純な備品ですらつくる能力も資源も持ち合わせていない」と。いわんやスマートフォンをや、である。我々は様々な現代技術の恩恵に浴しているけれど、シンプルな製品だって作れないのはもちろん、仕組みの理解すら覚束(おぼつか)ないのだ。  

 <1>西田宗千佳(むねちか)『すごい家電-いちばん身近な最先端技術』(講談社ブルーバックス・1,188円)は、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、炊飯器といった生活必需品から、太陽電池やHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)などこれから生活に入り込んでくるだろうエネルギーシステムまで、身近な家電を司(つかさど)っている技術をやさしく解きほぐした、意外と類書のない一冊である。トリビア本としても秀逸(というかそのつもりで書かれた節もある)。  

 <2>海猫沢(うみねこざわ)めろん『明日、機械がヒトになる-ルポ最新科学』(講談社現代新書・907円)も似た趣向だが、こちらは、SR(代替現実)、3Dプリンタ、アンドロイド、

AI(人工知能)、ヒューマンビッグデータ、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)など、よりSFっぽい、しかしもう実現されている技術についてそれぞれの専門家に話を聞いたものだ。

 この本には明確なテーマがある。それは「人間と機械の違いって何?」という問いだ。著者の海猫沢は小説家で、本気で「別に違わなくない?」と思っており、実際に口に出して聞くのだが、先生方も「同じじゃないですか」「違いはないですね」などと答えるのである。

 何を馬鹿(ばか)な、と思われるかもしれないが、究極的には論点は「心」と「自由意志」に行き着くようだ。このふたつを突き詰めていくと、それらがあるともないとも言い難い領域に辿(たど)り着いてしまう。そしてそこでは人間と機械を区別できなくなる。海猫沢はこの領域に「科学のなかにある文学性」を見ており、それを探ろうとしているのである。

 「人間を超えた人間性」とも言い換えられるが、海猫沢はその領域を追究している先達としてSF作家の神林長平をあげている。神林の初長篇<3>『あなたの魂に安らぎあれ』(ハヤカワ文庫・907円)はまさに、人間とアンドロイドの相克を通して双方にとっての生きることの意味を問うた作品だ。

 海猫沢は「次は彼ら機械に幸せになってもらおう」と本を締めていた。「あなたの魂」もむろん人間の精神だけを指していない。

『すごい家電-いちばん身近な最先端技術』
『すごい家電-いちばん
身近な最先端技術』
西田宗千佳
(講談社ブルーバックス・1,188円)
『明日、機械がヒトになる-ルポ最新科学ー』
『明日、機械がヒトになる-
ルポ最新科学』
海猫沢めろん
(講談社現代新書・907円)
『あなたの魂に安らぎあれ』
『あなたの魂に安らぎあれ』
神林長平
(ハヤカワ文庫・907円)