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3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

栗原裕一郎さん
(くりはら・ゆういちろう)

評論家。覚悟はしていたものの子育てに想像以上に時間を食われ、仕事が危機的状況です…。
栗原裕一郎

子育てを科学の目で

 寝ません…。原因不明にぐずりまくる「魔の五週目」はなんとかやり過ごしたものの、通称「背中スイッチ」-ベッドに降ろした途端に覚醒し泣き叫ぶ現象-は過敏になる一方。小一時間もゆらゆらと抱っこしてようやく背中スイッチをクリア、やれやれと机に向かったらまた「うぎゃーっ!」。5分もたってないぞ、息子よ…。というわけで、育児関連書しか読めてません、ここのところ。
 < 1 >ふじいまさこ『ママは悪くない!子育ては"科学の知恵"でラクになる』(NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?」取材班監修、主婦と生活社・1,080円)は、産後鬱(うつ)や夜泣きなど「子育てあるある」な現象に科学的な解説をほどこしたコミックエッセー。信憑性(しんぴょうせい)の怪しいサイトが並ぶネットより、専門家が監修するこうした本をひもといたほうが理解と安心を得るには手っ取り早い。
 < 2 >池谷裕二『パパは脳研究者』(クレヨンハウス・1,728円)も< 1 >にちょっと似ているのだけれど、もっと個人的に親密に、わが子の成長を脳科学の知見に照らし合わせて見守った本である。たとえば(うちの子はまだですが)、それまで「パパ」としか言えなかった子供が、ある日、父親のカバンを指し「パパの」と言う。たった一語「の」が増えただけだが、これは劇的な変化なのだと池谷は説く。パパという対象とその所有物を区別し、パパという主体に所有物が従属していることを子供が認知した証しなのだと。そんな具合に、ささやかな変化の裏で起こっている、子供のドラマチックな成長に気づかせてくれる、愛情に満ちたとても良い本です。こんなすてきな本を残せた著者がちょっとうらやましい。
 最後に紹介する< 3 >ジュディス・リッチ・ハリス『子育ての大誤解』(上)(下)(石田理恵訳、ハヤカワ文庫・各907円)は、子育ての「神話」を引っ繰り返し大激論を巻き起こした問題作。神話とは「親の育て方が子供の人生を左右する」という手放しで信じられてきた仮説だ。じゃあ、何が左右するのか。半分は遺伝、半分は友達との関係だという。「氏(うじ)か育ちか」ではなくて「氏と育ち」なのだ。だが「育ち」に相当するのは家庭環境ではなく、子供が所属する家庭外の共同体なのだと。
 むろんハリスの主張も仮説にすぎないが、先行研究を精査して繰り出す論理には一定の説得力がある。子育ては適当でいいと言っているのではない。子供の素質に見合った最善の環境を与えるよう努力するのは当然だが、親にできるのはせいぜいその程度だということだ。どっちにせよ、親のやるべきこと、やれることに大した違いはないんですけどね。
  • 『ママは悪くない!子育ては"科学の知恵"でラクになる』
    ふじいまさこ
    (ママたちが非常事態!?」取材班監修、主婦と生活社・1,080円)

  • 『パパは脳研究者』
    池谷裕二
    (クレヨンハウス・1,728円)

  • 『子育ての大誤解』(上)(下)
    ジュディス・リッチ・ハリス
    (石田理恵訳、ハヤカワ文庫・各907円)