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3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

酒井順子さん
(さかい・じゅんこ)

エッセイスト。昭和天皇崩御の年に、新入社員になりました。
酒井順子

大きな曲がり角の時代

 バブル期の風俗を真似(まね)る芸が流行(はや)ったり、バブル期のファッションがリバイバルしたりする、昨今。バブル絶頂の頃に新入社員となった、いわゆるバブル世代の私としては、「生腐れしていたバブルも、やっと乾いたのか」と、感慨深く思います。
 若者にとってバブルは、既に歴史上の出来事。実感として理解することが難しいかと思いますが、そんな時は<1>林真理子『アッコちゃんの時代』(新潮文庫・594円)がおすすめです。
 特に野心があったわけでもないのに、若さと美貌に吸い寄せられる男たちによって、バブルの時代の伝説と化した「アッコちゃん」。地上げの帝王や有名レストラン御曹司とのすったもんだの背景を彩るのは、ファッションブランドからシャンパン、ディスコまでのさまざまな固有名詞です。物質文明の只中(ただなか)で、人が心をどう扱っていたのかを垣間見ることができるのでした。
 ではなぜその時代、「地上げの帝王」といった存在が登場したのか。バブル風俗のベースにあるのはバブル経済であり、その狂乱への助走と崩壊までの道筋を示したのが、<2>永野健二『バブル-日本迷走の原点』(新潮社・1,836円)です。
 日本経済新聞の記者であった著者。明治以降、日本では資本主義と日本の文化をすり合わせるように、独自の経済システムがつくられてきたと記します。戦後もその経済システムが働いて高度成長を支えてきたけれど、しかし「耐用年数を過ぎて、機能しなくなった」ことを示したのが80年代のバブルである、と。
 「野心と血気に満ちた成り上がり者たちの一発逆転の成功物語」の数々、そしてその転落の軌跡は、まさに小説よりも奇。そしてアベノミクスが「『バブル』を意図的につくる政策」との指摘に、バブルは既に終わったものでなく、繰り返すものであることに気づかされます。
 <3>斎藤美奈子・成田龍一編著『1980年代』(河出ブックス・1,944円)は、バブルへと進んでいった80年代という時代の全体像を捉える書。政治、思想といったジャンルから、マンガ、プロレスまで、さまざまな書き手による分析を読んでいくと、懐かしさと同時に、あの時代は確実に、日本にとって大きな曲がり角だったのではないかと思えてきます。そしてその時に曲がった角度が正しかったのかが今、問われているような気がしてなりません。
  • 『アッコちゃんの時代』
    林真理子
    (新潮文庫・594円)

  • 『バブル-日本迷走の原点』
    永野健二
    (新潮社・1,836円)

  • 『1980年代』
    斎藤美奈子・成田龍一編著
    (河出ブックス・1,944円)