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3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

酒井順子さん
(さかい・じゅんこ)

エッセイスト。係累を亡くしてみると、疑似家族が欲しくなる。
酒井順子

家族に代わるつながり

 昨年、「薄い桃色のかたまり」をさいたま芸術劇場で観(み)て、涙した私。故・蜷川幸雄がつくった高齢者の劇団であるさいたまゴールド・シアターのために岩松了が書き下ろしたのは、震災後の福島を思わせる地が舞台の物語でした。  復興のため、線路を自主的に工事する高齢者たち。「復興本社」の男。恋人を探す若い女。…それぞれの不安や迷いは、直截(ちょくせつ)的には表現されず、猪(いのしし)の姿に託されていました。

 猪に翻弄(ほんろう)されつつも、物語の最後に彼らが見るのは、「薄い桃色」でした。高齢者から、次の世代へとつながっていくぼんやりとした希望が託されたのは、桜の花。戯曲<1>岩松了『薄い桃色のかたまり/少女ミウ』(白水社・2,376円)を読むことによって私は、桃色がもたらす希望を、追体験することとなったのです。

 世代のつながりは、血縁関係においてのみ見られるものではありません。特に震災後、肉親以外の疑似「家族」関係は注目されています。<2>矢部太郎『大家さんと僕』(新潮社・1,080円)は、お笑い芸人の著者と、著者が住む部屋の大家さんである八十代後半のおばあさんとの友情漫画(実話)。

 上品な老婦人である大家さんと、若い女の子はあまり得意ではない著者は、ウマが合います。互いに助け合い、時には旅行まで。

 二人の関係は、実の祖母と孫だったらこうはうまくいくまい、と思われるもの。大家と店子(たなこ)という、互いに遠慮のある関係だからこそ成立する友情ではないでしょうか。

 「大家といえば親も同然」だったという落語の世界的な関係性を思わせるお話でありつつ、その背景にあるのは現代社会における単身世帯の多さ。そんな中で二人は、新しいカップリングによる「家族」の可能性を、示すのです。

 <3>木村紅美(くみ)『雪子さんの足音』(講談社・1,404円)もまた、大家と店子の物語です。若い店子たちを食事に招いたりお小遣いをあげたりする大家の雪子さん。しかし雪子さんの店子たちに対する愛は次第に過剰になり、その愛を受け入れる人もいれば、気持ち悪さを感じる人も。そして過剰な愛に若者は、次第に実の子供のように慣れていく…。

 都会であるからこそ成立する、一人の生活。しかしその生活は、都会であるからこそ、寂しい。世代を超えた他人同士の愛は、そう簡単にマッチングするものでも、なさそうなのでした。
  • 『薄い桃色のかたまり/少女ミウ』
    岩松了
    (白水社・2,376円)

  • 『大家さんと僕』
    矢部太郎
    (新潮社・1,080円)

  • 『雪子さんの足音』
    木村紅美(くみ)
    (講談社・1,404円)