ほっとWebHOME > 3冊の本棚 > ファンタジー欲湧いたら

3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

山崎ナオコーラさん
(やまざき・なおこーら)

作家。リアルな登山や旅行は2歳児との暮らしの中ではなかなか行けず、遠出はもっぱら本の中でだけ。
山崎ナオコーラ

ファンタジー欲湧いたら

私は現実が好きだ。子どもの頃、『不思議の国のアリス』は愛読したが、他のファンタジーはあまり読まなかった。どちらかというと、『大草原の小さな家』や『若草物語』など、生活を丁寧に描いたものが好みだった。大人になってからも、「日常淡々系」の小説に手を出しがちだった。

だが、最近、竜が気になる。
育児や金欠により自宅内で小さく暮らし過ぎて、意識が浮遊し易(やす)くなったのか。「てんとう虫がブーブの運転手さんだよ」「お猿が雲を食べたよ」など現実と乖離(かいり)したメルヘンなことばかり喋(しゃべ)る二歳児から影響を受けたのか。理由はともあれ、せっかくファンタジー欲が湧いたので、少年向けの幻想小説を読んでみよう。

購入したものの読まず、十年ぐらい本棚に入れっぱなしにしていた〔1〕レイ・ブラッドベリ『たんぽぽのお酒』(北山克彦訳、晶文社・1,944円)のページを開いてみた。ファンタジー小説の巨匠による少年小説ということで、「めくるめく幻想世界」を勝手に予想していたのだが、意外にも幻想要素は薄め。むしろ、生活が丁寧に描かれていた。そう、「ファンタジーは、生活の対極」と私は思い込んでいたが、そんなことはなかった。うっとりするような詩的な文体で、ノスタルジックに忘れ得ぬ夏が描かれる。あまりに眩(まぶ)しい。「この小説、大きくなった子どもに読ませたい」と思った。
さて、ここで書店員の夫に「この路線で、あと二冊」を選んでもらった。

異世界を舞台にした〔2〕マイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』(山岸真訳、河出文庫・918円)は、少年少女の恋、戦争、世界の終わり、とローティーンの大好物が目白押(めじろお)しだ。紋切り型の親の造形や、ジェンダーバイアスかかりまくりのヒロイン設定に引っかかりを覚える私は年を取り過ぎたのか。ひねくれた視点や、冷たい世界観にも引いてしまう。「私が中学生だったら良い読者になれたのかも」と遅過ぎた出会いを悔やむ。

〔3〕岡田淳『二分間の冒険』(偕成社文庫・864円)。とうとう出てきた竜。しかし、この竜はオオサンショウウオのような姿で決してかっこ良くはない。そして、夢のエクスカリバー(伝説の魔法の剣)。だが、この剣は選ばれた人ではなく、みんなのもの。協力して竜退治。ヒロインへの尊敬も感じられる。おお、これも子どもに読んでもらいたい。

ただ、大人としては〔1〕や〔3〕を読んでもらいたくなるが、「本当の少年」に寄り添い、実際に助けるのは、〔2〕のような、大人には理解できない小説なのかもしれない、とも思ったのだった。
 
  • 『たんぽぽのお酒』
    レイ・ブラッドベリ
    (北山克彦訳、晶文社・1,944円)

  • 『ハローサマー、グッドバイ』
    マイクル・コーニイ
    (山岸真訳、河出文庫・918円)

  • 『二分間の冒険』
    岡田淳
    (偕成社文庫・864円)