私の東京物語
私の東京物語


 お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さん(35)が今月、元宝塚で女優の遼河はるひさんとともに東京新聞のイメージキャラクターになりました。大阪から夢を抱いて上京した青年が見た東京とは-。一回完結の特別編として、「私の東京物語」を語ってもらいました。

ネオンが輝く銀座
 上京したてのころの自分て、どんなんやったかなってたまに振り返ります。新宿とか渋谷歩いてて、人に声掛けられたら、全部「はい」って立ち止まってました。そんで、話を聞いて、なにか買わされそうになったり、良くわからん団体の集まりみたいなのに連れて行かれそうになったり…。
 何度もそんな目に遭ってきて、今は人に声を掛けられても止まらないです。冷たくしているわけではなくて、「道がわからないんですけど…」とか言われたら止まって教えたりもしますけど、そういうようなことがなければ止まらない。
 初めて上京して来た人が僕に話しかけて、僕が無視したら、「やっぱり東京の人って冷たい」って思うのかもしれないですね。だけど、みんな一度は、何か買わされそうになったり、望んでもいない所に連れて行かれそうになった経験しているんで、だれもが気い張って街を歩いているんやろうなあ、と思います。
 東京には、いろんな地域から皆、出て来てます。地元におったとき、マンガとかドラマとかで見る東京って華やかなんやけど、人がなんか冷たいとかいうイメージも強いですよね。
でも、上京してわかったことがあるんです。冷たいんじゃなくて、みんな地方から来て、緊張してるんだって。それぞれが東京の中で、喰(く)われへんように気を張ってる状態で、そんな個々の集合体なんですよね。だから東京生まれ東京育ちの人とたまに会うと、もうほんまに素朴というか、地方にいたときの地元の人のイメージとすごく近い。
大勢の人が行き交う渋谷駅前  よく人情厚いといわれる下町に限ったことでなく、僕の知り合いで、恵比寿や高円寺で生まれ育った芸人とかけっこういるんですけど、素朴で親しみやすくて、田舎の青年みたいなヤツらばっかりなんです。それで気付いたんですよね。あれ? 東京の人って冷たいって、ただの偏見だったんやないかなって。
 若いころは、古本屋をまわって三鷹、吉祥寺、西荻窪、荻窪によく行きましたね。たまに阿佐ケ谷、高円寺にもって感じでした。
 当時は千三百円の単行本も高くて買えなかったんですよ。だから、自分の住んでる地域の古本屋、全部回って、店の外に出てるワゴンセールで、百円で五冊とかから有名な近代文学を探して、買って行くんです。ある古本屋に行くと、店内の棚にキレイな状態で二百円とか三百五十円とかで売ってるんですよ。コレ高いから、コレと同じものをワゴンセールで探すっていう作業を繰り返して、どこの街のどこの古本屋に行ったらどんなものが、どれほど安く買えるっていうのが頭に全部入りました。
 僕の中で今一番試したいというか触れたい東京は、銀座かもしれないですね。昔の作家さんとか芸能人って、銀座でお酒飲んだとかって言うじゃないですか。でも僕ら世代で作家の人でも、芸人とか俳優さんとかに聞いても、銀座で飲んでる人いないんですよ。昔ながらの「ザ・芸人」「ザ・作家」みたいな人たちを、僕らの世代ってみんな、浮かれてるものとしてちょっと軽蔑しがちなんですが、僕はそこに飛び込んで行きたいですね(笑)。えっ、おまえが行くんかいっ! みたいな感じで(笑)。そういう、大御所さんが行くようなお店に行ったことないんですけど、食わず嫌いはあかんなと思って…。
吉祥寺の古書店「百年」  お店もプライドあって、ええ格好して、高い値段とって。銀座はそう言われますよね。少なくとも二十代前半のころの僕なら誰よりもそういうものを嫌ってたと思うんですけど、今はそうなった理由があるはずなんで、それが知りたい。どんなプロ意識があって、銀座の値段とプライドが高いのか。なんで土地が高いか。日本一に近い地価なのに、あの辺に大きい会社がいっぱいあるわけでもない。興味がつきませんよね。(聞き手・後藤国弘)
 
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