• 2012年
    (平成24年)
    05月23日
    (水曜日)


    中央区編

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     いよいよというか、2回目だというのにもう中央区に来てしまった。実をいうと、私も中央区の生まれなのだ。「神戸市中央区」だが。なるほど、自治体であるからには必ず「中央」はあるはずだから、あちらこちらに存在する区名だろう。たぶん、日本で一番多い「区」なのではないか、と調べてみたら、札幌市、さいたま市、千葉市、相模原市、新潟市、大阪市、神戸市、福岡市、熊本市の10カ所だった。ところが、「西区」や「北区」の方が12カ所で多く、一番多いのは13カ所の「南区」だった。そうか、中央区と同じ意味で「中区」というのが横浜や名古屋など6カ所にあって、分散されているようだ。そんな、多くの人々の身近に存在しているはずの割に、ほとんど親しみを感じないネーミングの町、東京都中央区を徘徊する。

    大人は健康的に昼の中央区を歩き廻る
     まずは、佃にある住吉神社からスタートすることにした。中央区といえばまず銀座なのだけれども、「暗くなった頃、銀座にいる」という偶然の装いが大人としては必要なので、ここはひとつ健康的に参拝から始めたい。神社の鳥居が、川の堤防の上に立っているのはなかなか面白い光景だ。通常、鳥居はそれをくぐれば更に高みをめざす位置関係にあるのではないか。ここでは、鳥居から、階段を下りていくことになる。 ここには以前も来たことがあったが、寄進をした人への返礼として贈り主の名を掲げる木枠に、皆が三千円だ五千円だと奉納している中、唯一「四千円」の部があって、名札には「笑福亭鶴瓶」と書かれていた。何か、巧妙な印象を受けたものだ。神社のいわれが彫られた銅板を読むと、「住吉」というだけあって、やはりここのルーツは大阪にあるらしい。いや、この地の名「佃」も大阪の地名を移入したのだった。家康の意向で東京に移住した大坂の漁民が、城に納品しない小魚を煮て自分たちで食べていた物が「佃煮」で、それが江戸の名物になったというのだから面白い。銘菓「ひよ子」が福岡県飯塚の名物だったことは有名だが、佃煮はある意味大坂名物であるといっても、間違いではないかも知れない可能性もなくもないとは言い切れないのだ。
     月島を抜けて銀座界隈に向かおうかとした刹那、古風な高札が川の中に立ってい
    る。「此の場所には、江戸時代後期寛政十年(一七九八年)徳川幕府より建立を許された大幟の柱・抱が、埋設されておりますので立入ったり掘り起こしたりしないで下さい。佃住吉講」とある。
    もちろん、この真新しい質感の高札が立てられたのは最近だろうけれど、これを立てるきっかけは、掘り起こした、あるいは掘り起こそうとした奴がいる、ということではないのか。しかし、それをさせないための威しとして、「徳川幕府」を持ち出す辺りがなかなかの価値基準なのである。苦しゅうない。 勝鬨橋が稼働橋の頃使用されていた信号 勝鬨橋が稼働橋の頃使用されていた信号


    古風な立て札が川の中に立つ古風な立て札が川の中に立つ

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    05月23日
    (水曜日)

     笑ってしまうほどたくさんの「もんじゃ焼き」店が密集する月島を通り抜けて、勝鬨橋を歩いて渡ると、小さなどうでもいいことを色々と発見できる。この橋が、もともと中央部分から割れて跳ね上がる可動橋だった名残りといえる、操作棟の手前にある信号機。この信号を守らないと、やがて橋の下を船が通るため、徐々にこう配が急になり、可動部分まで進んでしまった乗用車などは、後ろにずり下がって天を向いて発射を待つミサイルのようになってしまうか、裂け目から海へ真っ逆さまに落ちたのだ。知らないけれども。

     勝鬨橋は、40年くらい前に開かなくなってしまったが、今もファスナーのジグザグのような裂け目がぴったりと噛み合っていて、その機能を想像することは容易だ。建造物としては国の重要文化財に指定されているのだが、にもかかわらず欄干などに落書きをする馬鹿もいる。「月島 → 晴美」と書いて、「美」の横に「海」と書き直してある。「晴海」と書こうとして間違えたのだ。馬鹿だ。つき合っていられないので、銀座に向かう。



    昭和通りにさしかかると、有名なインド料理店「ナイル・レストラン」のご主人がいた。63年の暖簾を守る有名人だ。中村屋のボースとともにインド独立運動で活躍したA・M・ナーイルの子孫である。すごいね。ということで、カレー店店主同士のツーショット写真を撮影。
    珍しいカレー店主同士のツーショット

    銀座の文壇バーにて大作家の仲間入り!?
     それにしても、銀座には名店が多過ぎる。私にとって、銀座は背伸びをするための場所であるから、優先順位としては文壇バーが筆頭に来る。私は文壇を目指しているわけではないけれど、何となく大作家たちが座ったスツールに座って洋酒のグラスを傾ければ、自分が妙に奥行きのある人物であるかのような錯覚妄想に浸ることができて心地が良い。革ジャンパーの短い襟を正して、由緒正しきドアを押す。引くのだった。
     坂口安吾や太宰治が座っていたカウンター席に、当たり前のように座って、時間が滑る雰囲気を緩やかに楽しもう。ここに来たのは四半世紀ぶりだろうか。

    コロッケ蕎麦で舌鼓を打つ編集長


    随分とご無沙汰を、と恐縮する私にベテランのバーテンダーさんは、「一昨年くらいかな、小米朝さん(五代目・桂米團治さんの前名)と楽しく賑やかにいらっしゃいましたよ」とにこやかに教えてくださった。うう、米團治さんと酔っ払ってうかがって、騒いだ挙げ句にそのことを私はすっかりと忘れてしまっていたのだ。錯覚妄想ではなく、錯乱忘却だった……。
     空きっ腹で飲んでしまっては、また今日もおかしくなる。腹ごしらえに、ひとまず「よし田」のコロッケ蕎麦を手繰る。ゆうに30年ぶりの逸品。コロッケといっても、芋がぼそぼそとくずれるようなものではなく、すこぶる蕎麦に合う物だ。もちろん、蕎麦屋では日本酒だろう。当たり前だ、そうでないと失礼だ。何に失礼なのかわからないが、何だかんだと理屈を付け、言い訳を募っては、ジャパニーズ・サケを啜り込む。
     相当に体表温度が上がった状態で外に出るも、コイン・パーキングの「オールタイム 10分/500円」の看板にただただ驚き、血の気も引いた。たったの一時間車を停めて、三千円だ。京都大原三千院。東京オールタイム三千円。あまりの驚きに歌ってしまったではないか。
    まずは老舗の文壇バー「銀座・ルパン」へ

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    茉莉花のママ、久世さんとの楽しい時間

    楽しい時間は愛情おつまみとともに始まる
     さて、二軒目の文壇バーである。私が滑舌も怪しく、「まり花、という文壇バーがあった」と、かつて銀座に存在した店名を口走ったら、どこかで調べて来たのだろう、編集担当氏が「こちらです」と案内する。もうすでにないバーなのに、案内されるとはなかなかの酩酊状態だと自覚するも、誘われたのは似て非なる「茉莉花」という店だった。そして、読み方も「ジャスミン」なのである。看板は「シャスミン」になっていたけれども。そして、もちろん明らかに別人のママさんの話を聞けば、何と演出家の久世光彦さんの未亡人ではないか。ご主人には「水曜劇場」や、TBSを辞められた後のNHKのドラマでお世話になりました……、などと言っているうちに、素晴しい焼酎「侍士の門」やら手料理やらが次から次へと出て来て、無自覚に楽しいだけの時が過ぎてしまった。
    愛情おつまみ攻撃から身をかわすように飛び出し、エレベーターでは、最近被害が銀座周辺で発生しているという「抱きつきスリ」に気をつけつつ、定員6名で400キロまでという容量だと66キロだからすでに私は一人分をオーバーしているので駄目だと嘆きつつ、銀座へ来れば思い出す、落語界では知らぬ者はない老舗バー「美弥」へ。看板の千社札からもお分かりの通り、昨年亡くなった立川談志師匠が溺愛したバーだ。



    スポット情報

    ●銀座・ルパン
    中央区銀座5?5?11 塚本不動産ビル地階
    TEL 03-3571-0750
    http://www.lupin.co.jp/

    ●そば所 よし田
    中央区銀座7?7?8
    TEL 03-0526-0627

    ●茉莉花(ジャスミン)
    中央区銀座6?6?9 ソワレ・ド・銀座ビル3階
    TEL 03-3574-8311

    ●美弥(みや)
    中央区銀座6?2?7 代十三金井ビル内
    TEL 03-3573-3891



    立川談志師匠の戒名札で脅される編集長
     私の頭の後ろに掲げられたパネルの千社札群をご覧頂きたい。次から次へと貼り重ねられた藝名の数々。懐かしい藝人、歌手、スポーツ選手、文化人の名前が夥しく犇めき合っている。パネル以外にも、漫才をしていた頃のツービートの名が、天井にぽつんとあったり、先代の柳家小さん師匠のボトルがひっそりと棚に並んでいたり。古き良き藝人さんたちの息づかいを感じながら雰囲気に呑まれていると、カウンター内でアルバイトをしている談志師匠の弟子・立川キウイ君が、嬉しそうに故・家元が生前自分で書いた戒名の札で脅して来るのでふと我に返り退散。
     そこから至近にある数寄屋橋公園の、岡本太郎・作「若い時計台」の下で、長年の持病である「憑衣癖」を確認して、ようやく帰途についたのだった。長かったなあ。恐るべし、中央区。

    何だ、これは、芸術はバクハツだ?何だ、これは、芸術はバクハツだ?
    立川談志師匠のお弟子さん 立川キウイ 立川談志師匠のお弟子さん 立川キウイ君