2012年(平成24年)6月27日(水曜日)

刷り込みとはおそろしいもので、新宿と言ってまず浮かんで来るイメージは、中学生の頃毎週必死になって観ていた「太陽にほえろ!」という刑事ドラマで、石原裕次郎が建設途中の新宿副都心に仁王立ちになってタバコに火をつけ、眩しそうな表情で大股に歩くのを望遠で捉えた場面なのだ。高校の頃までは必死で観ていたなあ。新宿というところは、そこかしこに犯罪者やカッコいい刑事がいて、ピストルが持ち歩かれ、現場検証が頻繁に行われている、そんな危険な街だと思っていた。まあ、実際にそれに近い部分もあったのだろうけれど。
新宿「副都心」と書いたけれど、都庁が越して来た今は「都心」になっているのだろうか。しかし「新宿都心」という言い方はあまり聞かないような気がする。これは丸の内に都庁があったから新宿が副都心になったわけではないのか。
まずは新大久保の様子を眺めてみる!
駅の改札を出て右手へ進むと、いきなりガード下の、お世辞にも美人とは言いにくい美人画が目に入る。
これが何のために描かれたのかは理解できないが、天空からやって来るエイリアンへ向けてのメッセージでないことだけは確かだ。
まずは新宿区の中でも、最も国際都市の雰囲気を味わえる、新大久保にやって来た。三遊亭歌奴(現・圓歌)の「しんお?くぼぉ」のイメージしかなかったこの街は、すこぶるキッチュでアジアンテイストが溢れる、無国籍というか多国籍の印象になっている。
丁寧にペンキで塗られたその壁画に、告知が貼られていた。「山手線(23)第三大久保ガード→お願い←自動車が衝突したのを見た方は、至急ご連絡下さい。JR東日本 東京施設指令(電話番号)」とある。よく見ると、壁画に貼られてあるのではなく、埋め込まれ、四隅をビスで留められている。何だこれは!いつの話だ!何に衝突したのだ!見た人、早く!連絡してあげてください!
さ、次に行こう。

新大久保の駅前にて

  • 美人画のような…

  • 衝突が頻繁に起こっているのだろうか!?

  • ソウル市場前にて

「韓流アイドルパーク」の原色看板はどうか。どうかと言われても困るか。有名テーマパークの園内にすら、このビビッドさはないのではないか。毒々しいまでに派手な色使いは、この街の雰囲気だからこそ成立するのだろう。入る勇気はないのだけれども、「芸能人ひろば」には芸能人がいるのだろうか。いつも数人溜まっていたらコワいな。
ウサギを連れた自転車おじさん発見。連れた、というよりもウサギを左の掌に乗せて、昔のコントで見たざる蕎麦を運ぶ出前のおじさんみたいな状態で快走して来る。暫く、ウサちゃんの色んな角度バージョンを拝見。すぐ近くの店には、ガラスの内側から結構なスペースを割いて「IKKOさんが来店しました!」と、サイン色紙付きで誇らしく掲げられている。おかしな言い方だけれども、東京でここまで喜んでくれる店はなかなか無いのではないか。IKKOさんもお喜びだろう。
ある店舗のシャッターに貼られたSECOMのステッカーは、この場所で良いのか。もちろん、うっかり貼ったわけではないだろう。入念に、左右の位置と水平を、注意深く「決定」しているようだ。新聞投入口を厳重に守っているけれど、過去に何があったのか。新聞泥棒が出たのかも知れないが、SECOMの契約料と新聞代は釣り合うのか。そして、新聞はどこから入れているのか。

目立っていました

大きな「ドン キホーテ」の看板は、カタカナの方が随分小さく、ハングル語がメインになっている。少し路地裏を歩く。区と警察署が設置した「車に注意」の看板には日本語とハングル文字の並記。自転車放置対策の手書きの張り紙は、日本語とハングル語と中国語で書かれている。映画の撮影でウラジオストックに行った時のことを思い出した。町中にはロシア語、英語、ハングル語、中国語の注意書きや案内が溢れていたが、ただの一度も日本語を見なかった。それほど日本人が少ないのだ。にもかかわらず、領事館を置いて専任のシェフを住まわせ、夥しい高級ワインが所蔵されている。日本語を見るとすれば日本から輸入したであろう中古トラックの車体に書かれた業者名を塗り替えずにそのまま使っている場合だ。そして、左折時の「ヒダリニ、マガリマス」の声も頻繁に。
日本語を見るとすれば、日本から輸入したであろう中古トラックの車体に書かれた業者名を塗り替えずにそのまま使っている場合だ。そして、左折時の「ヒダリニ、マガリマス」の声も頻繁に。
話がロシアに逸れたので、新宿へ戻そう。この看板は一瞬何かの誤植のようなものだと感じられるのではないだろうか。香港などで、日本人観光客に読ませるつもりが、「ラーメン」を「うーメン」としてしまうような、全くいい加減な翻訳だ。新大久保にもあった。「韓国宮廷菓子・福糸玉」に、「アジアフードヅヤパソ」と書かれている。「ずやぱそ」って何だ。もちろん、「ジャパン」の誤植なのだが、この「ノしプラザ韓國カラオケ」の「ノし」とは何か。しばし考えて、わかった。盧泰愚元大統領、盧武鉉前大統領のように、盧さんという人が経営するカラオケ屋なのだ。それに敬称の「氏」を付けて、「ノし」プラザ、なのだろう。真相を確認する勇気はなかったので、通過することにしたけれども。
その先には、カーネル・サンダースのような役割であろう飲食店のマスコットキャラクターが佇んでいる。手にやかんとマッコリのぐい飲みを持ってニッコリ笑っている「マッコリボウズ」君だ。頬は紅潮し、すっかり酩酊状態になっているようだが、どう見ても未成年ではないか。
改装業者の看板代わりの文字「リホーム」は、「リフォーム」を相当昔に貼ったからこうなったのか、それとも「李ホーム」なのだろうか。いや、その下に「一筋」とあるからには、やはりリフォームだろう。それも、カッコ付きで「(50年)」とある。そして、なぜ切れ目を避けてレイアウトしなかったのだろうか。「ム」は太いから持ち堪えているが、「年」は残念な状態になっているではないか。
  • 辛そうだけど「甘口」

  • ドンドンドン・ドン・キ~♪

  • イラストも良い感じです

2012年(平成24年)6月27日(水曜日)

ペさんに囲まれデジカルビと冷麺と…
韓国料理の店に入ることになった。昔よく焼き肉屋で見かけた星占いの卓上自動販売機、こんなファンシーないでたちになって生き残っていたのか!感動を覚えながら、上面を見たら、「ご注文」「お水」「呼出し」「お会計」のボタンがついている!アナログな機材に、ちょっとハイテクが合体して、こんなことになっていたとは、逞しいものだ。私たちが通された席は、一角がすべてペ・ヨンジュン氏に囲まれている。その中で、極力ペさんと目を合わせないようにテジカルビ、冷麺、チジミ、クッパなど、黙々と頂いた。
腹も膨れたところで、スキップするような感じで歩き始めたら、独創的というよりも独走的な貸店舗の手書きポスターを発見。壁にダイイングメッセージで残されたような色調で、「お気軽にお問い合わせください」と書かれているが、気軽には行きづらい。

メニューを眺める編集長

歌舞伎町からゴールデン街を散策
少し、歌舞伎町の方面を散策してみようと、南へ下る。110番通報済みなどという物騒な空気の中、ゲームセンターでクレーンゲーム。「ワンピース」のフィギュアを計200円ポッキリでゲット。それほど欲しいわけではないのに、なぜか本能がいたずらをしてしまうのだ。
40年以上営業を続けている「しびれるキャバレー日の丸」のキッチュさは、「韓流アイドルパーク」に負けていない。しかし、デザインは日の丸というよりバングラデシュの国旗に近いけれど……。
歌舞伎町では、寝相が悪くて自宅からこんなところにまで転がって来た若者が。ちゃんとパジャマに着替えなさい。すぐそばには、立ち喰い寿司「にぎにぎ?」かと思ったら「にぎにぎ一(いち)」だった。一個百円です。実は歌舞伎町については興味深い部分が目白押しなのだけれども、品格ある東京深聞のイメージにも関わることなので、早めにゴールデン街へ。
私が初めてこの一角に足を踏み入れたのは、今から28年ほど前にT芸能のIさんという敏腕マネージャー氏に誘われて小さなバーに入った時だった。今でも鮮明に覚えている。3人座れば窮屈なカウンターの中で、階上の他店に繋がる階段が頭上から迫っているので、マスターがずっと首を傾げているのが滑稽だった。二人でバーボンのソーダ割を二杯ずつ飲んで、会計が1600円。私が足しげく通うようになったのは言うまでもない。
  • 200円でフィギュアをゲット!

  • 歌舞伎町っぽさ満点の看板。

  • パジャマに着替えなさい!

お年寄りの一人暮らしが社会問題化しているとよくメディアで取り上げられる戸山の集合住宅脇を、やはり国際都市であることをだめ押ししているかのような万国旗を見上げながら通過し、「IIIO」という謎の札が貼られたトイレを発見。ほぼ日刊イトイ新聞かと思ったらそうではなかった。「イイトイレ」と読むのだそうで、「11月10日は、トイレの日」であり、全国グッドトイレ10に入選した記念だったのだ。「男性用」の看板はビニールテープで仮留めされているが、他の表記はもう無きに等しいイイトイレなのだ。しっかり使おう。そして、すぐ近くのコープとうきょうの掲示板裏に、なぜか多くの傘が隠れるようにぶら下がっている。誰かがこっそりキープしているのだろうか。なぞである。

万国旗がたなびく戸山の集合住宅

スポット情報

2012年(平成24年)6月27日(水曜日)

しかし、ここは以前、相当に荒っぽい街だった。演劇・映画・出版・音楽関係者、作家、役者が入り乱れ、酒席で前向きな批判や激論をぶつけ合いながら活動の糧にしていたのだ。
中には、他人に議論を吹っかけることが目的でやって来たのかと思うような輩もいたし、細い路地の細いドアからつまみ出されけり出された人も何度か見た。
もちろん、私は争いには介入せず、観察するのみだけれども。昨年末亡くなってしまった内藤陳さんの「深夜+1(プラスワン)」(壁の赤塚不二夫さんのサインが懐かしい)や外波山文明さんの「クラクラ」(カウンターの生前の指定席に、たこ八郎さんの像が鎮座している)が居心地がよく、最近も気まぐれに顔を出してはチョイと引っ掛けてノスタルジーに浸っている。

赤塚不二夫さんのサインを発見

新宿で都庁を触れないのも不自然なので、寄る必然を考えたら、「やはり展望台」ということになった。何とここは、地上202mからの眺望で、入場無料なのだ。しかし、スペクタクルだけを求めても不純な気がしたので、都議会議事堂などを社会見学。なあるほど、あのお爺さんはあそこの席で目をシバシバしているのかあ。案内板に訂正箇所が。「Citizen's Plaza」の最初を「Si?」とでもしていたのかな。
イサムノグチらの彫刻やオブジェが数十点、敷地や建物内に点在していて、これにいくらぐらいかかっているのかなあ、などと私らしく不純な気持ちで歩き回ったりオブジェでジェンガごっこをしたり。妙にポップなオブジェがあると思ったら、放射線測定器だった。「放射線測定中 さわらないでください」とあるが、触ると影響するのかな。
なかなかに大掛かりで水の仕掛けもある彫刻作品があったが、作者名などがわからず、どこにキャプションがあるのだろうと探したら、「庁舎及び敷地内では、左記の行為を禁止します」という立て看板の台座に塞がれていた。「水の神殿/関根伸夫」だった。お気の毒様です。二番目の項目の、「美観を害する」のはこの立て看板なんだけれどなあ。
45階に上がると「緊急地震速報が放送された場合は速やかにこの場所から離れてください」と注意書きが。この場所とは何を指し、離れるというのは何メートルなのか、意味が分からなかった。ポスターから離れれば良いのか、都庁から離れるのか……。しかし都庁展望台、これでタダとは太っ腹。ちょうど良くリアルに眼下の景色を見られる高さなので、これは値打ちがある。北側と南側では、南側の方が景色がいいのに、南のエレベーターに乗りかけた中国人観光客たちは大挙して北へ向かった。何でも、土産物スペースが大きめなのだとか。無問題よ。
  • 放射能を測っていました

  • 都議会議事堂を見学する編集長

  • ジェンガごっこを楽しむ編集長

  • こんな所に隠れていました!

  • 展望台からの素晴らしい景色

  • 眺望を楽しむ編集長

お知らせ
  • 「東京くねくね」 絶賛販売中! / 松尾貴史

    「東京新聞ほっと」にて足掛け5年の連載を経て、『松尾貴史無責任編集 東京深聞』が待望の書籍化!タレント松尾貴史さんが、東京23区と近郊を気の向くままに歩き、発見し、書き記す、深オモシロイ話。

PROFILE

編集長松尾貴史

1960年神戸市生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、研究室勤務のかたわら、ナレーターとしてデビュー。テレビ、ラジオ、映画、舞台、エッセイ、イラスト、カレー店など、分野にこだわらず活動。著書に「接客主義」「ネタになる統計データ」など。最新刊は「なぜ宇宙人は地球に来ない?笑う超常現象入門」を編み直した「超常現象・都市伝説」(PHP研究所)。