旧岩崎邸の石垣とれんが塀、あふれる緑が美しい無縁坂を下ると、不忍池ではハスが陽光を浴びて輝いている。この辺りは本郷台地と上野台地のはざまだ。東大裏門近くには弁慶ゆかりの井戸や横山大観の家がひっそりと残る。
ストアフロントは、そんな静かな街に溶け込む小さなギャラリー兼古書店だ。昨年、美術評論家の柳正彦さんと現代美術の画商の都筑洋介さんが開いた。柳さんは長年ニューヨークを拠点に、風景や建造物を包む作品で知られる芸術家のクリストを手伝う傍らで、アートブック専門店のセレクションもしてきた。「30年かけてためた美術書のほか、古本屋も好きで…」。古書店にまつわる本もそろう。
上野の森の裏には水月ホテル?外荘がある。森?外が赤松家の娘と結婚していた1年半の間に出世作「舞姫」を執筆した家を一部保存している。「戦後簡単には入手できない金額でしたが『人手を転々としていたら壊されてしまう』と先代が意を決し購入したそうです」とおかみの中村みさ子さんは話す。守ったお礼かその数年後、温泉が出たそうだ。
今年は?外生誕150周年。今度は朝の温泉と、蓮玉庵辺りをめぐり「雁」の世界にひたろう。(武居智子)
2012年9月8日(土曜日)掲載分
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