東京ほっとコラム



一杯のこだわり

2013/05 味・グルメ(23区エリア / 江東区)

門前仲町の交差点から一本裏の通りに、門仲そばという屋号の立ち食いそば屋がある。
秋葉原の名店川一に教えを受けた汁は、シャープにして奥深く、やまたけの茹で麺との相性も抜群だ。
ご主人、話を聞いてみるとかなり熱い人のようで、立ち食いそばに対する自らの美学をしっかりと持っている。
味がいいのは当たり前、立ち食いそばの魅力の一つ、注文したらサッと出てくるスピード感を大事にしたい、とのこと。
その美学は揚げ置きされた天ぷらや、薬味のネギにいたるまで、国産のものしか使わないなど、美味しい一杯を美味しく食べてもらうことに徹底してフォーカスしている。
食券を渡して、ご主人とそんな話をしながら、そばが出てくるのを待つ。
出された一杯は、ご主人のこだわりとホスピタリティがつまっているようだ。
ぼくは汁の最後の一滴まで飲み干してしまう。

(東京都 宮原隆男)


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殺伐とした場所が癒やしの街に

2012/10 場所、風景(23区エリア / 江東区)

私が住都公団(現・都市機構)北砂五丁目住宅に入居したのが1982年秋だから、今年で30年になる。入居が始まって5年目の真新しい団地だった。当時まだ周りは空き地だらけ。バスもなく都営新宿線は大島が終点だった。殺伐とした風景に大変なところへ来てしまったと驚き、孤独を嘆いたものだ。
それがどうだろう。30年を経てこの辺りもすっかり生活環境が整い、様変わりした。なによりの恵みは森や広場の植生が根付き、豊かな緑を生い茂らせたことだ。8階の廊下から見下ろせば、サクラから若葉へ、紅葉から雪景色への変化が一望できる。森の小径を行けばちょっとした深山幽谷の気分。木漏れ日が美しい。
敷地内に「我が国精製糖工業発祥の地」の碑、バス通り側には「松平冠山屋敷跡」の表示板がある。松平冠山は『江戸名所図会』の序文を書いた江戸時代の学者だ。

(東京都 伊藤国彦)


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住みたい!

2012/06 場所、風景(23区エリア / 江東区)

関東に住み始めて1年。仕事関係で江東区有明に行きました。降りた駅は、国際展示場。たまたま訪れた場所です。ファッションタウンビルに向かって歩いていくと、目の前に美しい光景が現れました。澄みきった青色の海。海沿いには、まるでレインボーブリッジのような整備された道路。新しく建てられた高層ビル。「ここは、海外?」「ニューヨーク?」という感覚を覚えました。感動しました。わたしにとって東京とは思えない場所です。地元、仙台でもこんなにインフラストラクチャーが整っているところは見たことがありませんでした。「有明に住めたら・・」と心に抱くほど惚れてしまいました。本当に素敵です。今度、有明の街を探検して穴場を見つけたいと思っています。

(神奈川県 あいはらえりこ)


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赤い橋のある風景

2012/03 場所、風景(23区エリア / 江東区)

木場の駅を出て、だだっ広い永代通りの小路を南に入ると赤い橋が見える。新田橋という小さな橋は、昭和7年に地元の医師・新田清三郎が妻の死を悼んで掛けた慰霊の橋である。新田橋の名は新田医師を称える通称だったという。12年前、大横川の拡幅に伴って掛けかえられることになり心配したが、新しい橋も同じ深紅に塗られ、いまも赤い橋の風景は変わらない。旧新田橋は近くの公園に保存されている。
橋を渡った先に洲崎神社と洲崎弁天があり、東へ延びる緑道は洲崎川の跡だ。永代通りの北側は広大な貯木場や材木問屋があったところで、60年代末にこれらはほとんどが新木場に移った。永代通りを都電が走っていたこともはるか昔の話になった。
新田橋の欄干にもたれ、流れを忘れた川を眺めれば去来する思い出はつきない。いまは亡き叔父・叔母、弟もこの橋を渡ったのか。浅川マキの物憂い歌声が聞えるようだ。

(東京都 伊藤国彦)


2012/05/23掲載


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薫風に吹かれて

2011/05 場所、風景(23区エリア / 江東区)

五月の「みどりの日」に江東区にある芭蕉庵跡を訪れた。太鼓橋の面影を残す万年橋を渡ると、そこは水上バスが走る隅田川が一望できる展望公園になっていた。近所の芭蕉記念館でゆかりの文物とその足跡を見た後、堤防沿いの公園を一人歩いていた。
川沿いのビジネスビルの数階のデッキから男女二人が光る隅田川を見つめていた。下を歩く私と眼があった髪の長い美しい娘が「こんにちは」と挨拶した。私も「こんにちは」と返事した。隅田川を撫でる薫風に吹かれたせいだろうか。私は芭蕉とかつては大川と呼ばれていた隅田川をこよなく愛した芥川龍之介の文章の一節を思い出させた。
<大川の水の色は「丁度、長旅に出た巡礼が、漸く又故郷の土を踏んだ時のような、さびしい、自由ななつかしさ」を感じさせる。>
新大橋を渡り、日本橋浜町に着いて振り返ると二人はまだ川を見つめていた。見も知らぬその二人の幸福を祈っている私に気がついた。

(兵庫県 岸野孝彦)


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