ほっとWebHOME > 泉麻人の東京深聞 > 大森から島へ行く

2017年(平成29年)4月12日(水曜日)

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 東京にもいくつかの島がある。といっても、大島や三宅島などの伊豆七島ではなく、古くから江戸湾の島と知られる佃島でもなく、湾岸部に戦後続々と誕生した埋立地の島。とりわけ大田区には、平和島に昭和島…島名義の町が目につく。平和島や昭和島は羽田へ行くときのモノレールで通りがかるけれど、前から一度行ってみたいと思っていたのが、大森からバスが出ている京浜島と城南島だ。地図を見て、およそ工場だらけの景色は想像できるのだが、島行きのバスというのはなんとなくロマンをかきたてられる。
 大森駅は西口に出ると、以前訪ねた馬込文士村の領域でもある山王の台地が迫っているが、東口は海岸部に続く平坦な市街が広がっている。島行きのバスが出るのは東口。しかし、久しぶりにやってきてみると東口の景観も随分と変わっている。ほんのひと頃まで、ごちゃっとした広場の一角に何やら古めかしい石像のようなのが置かれていたはずだが、すっきりしたバスターミナルに変貌している。
 しかし、ここに置かれていた像、ナンだったかな? 消えてしまうと思い出せないものだ。
 ターミナルに入りこんでくるバスはすべて京急バスで、ちょっとおもしろいのは、平和島ボートレース場の方へ行く乗り場の脇にオバチャンが売る予想新聞の露店が出ている。本日はレース開催日らしく、通常の路線バスとは別に競艇場側がサービスで運行する無料バス(こちらも車両は京急バス)もやってくる。さて、京浜島と城南島、どちらから先に行ってもいいのだが、本数の多い「京浜島循環」が早く来たのでコレに乗車した。

平和島のボートレース場へ向かうバス亭には、ボートの場外新聞を売るおばちゃんが。

  • 今回のスタート地点である「大森駅」の東口側。以前に比べるとスッキリとしたバスターミナルへ変貌を遂げた。

  • 今回のルートは複数のバスで回れるため、とりあえず来た「京浜島循環に乗ることに。

2017年(平成29年)4月12日(水曜日)

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京浜島へと向かう一同。搭乗者の若者たちが降りた先には…

 平和島方面の乗り場は競艇目当てのオッチャンが圧倒的に多かったが、このバスは案外若い人が多い。バスは京急の大森海岸駅の横から第一京浜に入って、平和島駅の先で環七を左折、湾岸部へ進んでいく。京急の平和島駅があるのは陸側の大森北だが、実際の平和島は平和の森公園(もとの運河)をまたぐ都大橋を渡ってからで、首都高羽田線を挟んで倉庫群が目につくようになってくる。京浜運河を渡って湾岸道路に入るや否や渋滞にハマッた。まわりの車の大方はコンテナを載せたトラック。ほとんどがこの辺の物流施設を往き来している車だろう。見晴らしの良い京浜大橋を通過して、ようやく京浜島の領域に入った。
 京浜島一番地、京浜島二番地…と、工場倉庫街のなかにハードボイルド風味の停留所が続く。乗ってきた若い人はそういった停留所で1人、2人と降りていく。午前10時台という比較的おそい朝の時間帯からして、界隈の倉庫でアルバイトをする若者かもしれない。友人同士ハシャぎながら降りていくような光景は見られず、きちんとした身なりの寡黙な青年が多い。なんとなく、村上春樹の小説に出てくる男の姿を連想した。若い女性もいたから、力仕事ばかりではないのだろう。
 どこで降りようか…と思ったが、美空ひばりの歌(港町十三番地)が重なる、京浜島十四番地で降りることにした。~金属、~鉄工、~鋳造…といった看板を掲げた鉄鋼関係の工場や倉庫が並んでいる。灰色イメージの街並に少しでも色を付けようというコンセプトなのか、アカシヤ通り、くすのき通り、さざんか通り、といった具合に、それぞれの街路樹を植えこんだ通りが設定されている。
 羽田側の海岸づたいに「京浜島つばさ公園」という緑地が設けられているが、ここは「つばさ」の名のとおり、すぐ向こうの羽田空港へ着陸する旅客機が間近で眺められる。飛行機見物目当ての人がよく来るのだろう、公園の一角には30種余りの各社旅客機の尾翼デザインの図解板が掲示されていた。
 しかし、思っていたよりずっと短い間隔で旅客機が降下してくる。時間帯にもよるだろうが、お昼前のこの時間は2、3分に1機くらいのペース。スキージャンプ競技の中継のように、見始めると案外クセになるもので、もう1機、もう1機、となかなかやめられない。しばらく眺めていると、着地のウマイヘタの差がシロート目にもわかってくる(国内大手は相対的にお上手でした)。

京浜島の周辺は工場や倉庫が多く、運送用のトラックが走りやすいよう道路も広め。景観が似ているため、こまめに通りの名前をチェックしないと迷子になりそうです。

  • 空港が近く飛行機の撮影スポットとしても人気の京浜島周辺。ガードレールにも飛行機と青空が。

  • 着陸態勢に入っている旅客機をパチリ。何機かを連続して観ていると、傍目にもパイロットの運転技術の差を感じられるように。

  • 公園には羽田空港に就航している航空会社を説明する看板が!機体の尾翼にあるロゴが識別の際のポイント。

2017年(平成29年)4月12日(水曜日)

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働く男のスタミナ食!? グルメも唸らす絶品定食たち

 そろそろオナカが減ってきた。このあたりで昼(飯)となると、やはり大田市場だろう。来るときのバスに乗って京浜大橋で降りるのが近いが、ちょうどバスは行ってしまったばかり。しかも11時台からは便数も減って30分余り待たなくてはならない。地図をサラッと見れば運河を挟んだすぐ向こう岸だから、湾岸道路づたいに歩いていったらこれがけっこう長い。つばさ公園のあたりから地図でちゃんと距離を測ったら、1.5キロほどあった。
 品川区の大井埠頭から続く埋立地の南端に大田市場が開場したのは、平成に入ってまもない89年。水産と花卉の部門も多少あるが、主体は神田と荏原から移ってきた青果の市場、いわゆる"やっちゃ場"だ。各棟の屋根にはタケノコやカブ、ブドウなどを象った可愛らしいマスコットが掲げられている。完成してもう30年近くになるわけだが、まあなんとなく築地の次の市場(豊洲なのか、はたまた?)というのはこういう雰囲気になるのかな…と、コンクリート建ての棟を眺めつつ思う。食事処は築地ほどの規模はないけれど、事務棟あるいは関連棟に数軒の店が入っている。僕らが立ち寄ったのは、事務棟2階の「かんだ福寿」(少し前まで「大松」といった)。ここはネットの情報でも目につく人気店で、大きな海老フライや穴子天のダイナミックな写真がよく載っている。屋号のとおり、神田市場の時代から百年くらい続いている老舗らしい。僕はカキフライ定食をいただいた(生ガキも1つ付く)が、甘味のあるおいしいカキだった。

湾岸道路沿いに大田市場へ向かう取材班。地図上では近そうでも、実際に歩いたら意外と距離がありました…

  • 京浜島から城南島へと移動中。このあたりが島であることが感じられる。

  • 泉さんのランチはカキフライ定食。生牡蠣も一つ付いていて、美味しそう。

  • カメラマンは見栄えを考慮して大海老天丼。丼からエビがハミ出していて、迫力満点!

2017年(平成29年)4月12日(水曜日)

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至近距離からの旅客機に大興奮!
ジェットの轟音も迫力に拍車をかける

 腹を満たしたところで、もう一つの城南島へ。ここも橋(城南大橋)を渡ったお隣りの島なのだが、大田市場の停留所に城南島循環のバスがやってくる。1時間に1本あるかないかのレアな路線。食事のペースも考慮して、うまく時間を合わせて事務棟の前の停留所(大田市場事務棟)から乗車すると、このバスは大田市場北門とか水産棟前とか、場内をぐるりと巡回してから外へ出る。城南大橋を渡って城南島へ入ると、建材埠頭、城南島二丁目…こちらは京浜島のように番地名義の停留所はないけれど、やはりあまり見たことのないメーカーの工場や倉庫が建ち並んでいる。
 なかで、バス停の名としてちょっと目を引くのが、動物愛護センター。帰路に通りがかったけれど、茶色いレンガ調の洋館がひっそりと建っている。少し暗い話になるけれど、ここは引き取り手のないペットの殺処分などが行われる施設らしい。
 さて、この島も海べりに公園が設けられている。オートキャンプ場やドッグラン場などもあって、その規模は京浜島のつばさ公園より遥かに広い。つばさ浜と名付けられた外縁の人工なぎさはアサリも採れるらしいが、ここは先の京浜島以上に着陸する旅客機のインパクト満点のショットを眺めることができる。つばさ浜のあたりに立っていると、東方のゲートブリッジの上空から姿を現したジェット機がぐんぐん高度を下げてきて、頭上をヒューッと飛んで背後の滑走路に着陸する。機体の腹をこれほど近距離で仰ぎ見られるスポットは、ちょっと他にないだろう。
 手持ちのデジカメで飛行機のオナカを狙い始めたら、止まらなくなってしまった。

いろいろな構図にトライしたくなるシイチュエーション。人気スポットなのもうなずけます。

  • 市場の事務棟前にある停留所。バスは反対側の市場北門を経由して場内をぐるりと廻ってから場外へ。

  • 動物愛護センターの建物前。この裏には大きな煙突があり、引き取られたあとのペットたちの行く末を考えさせられます…。

  • 感覚的には、頭のすぐ上を通過していく旅客機。周辺にはカメラを抱えた人が大勢スタンバイしています。

イラスト:なかむらるみ

PROFILE

泉麻人(コラムニスト)

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。
近著に『僕とニュー・ミュージックの時代』(シンコーミュージック)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)など。

なかむらるみ(イラストレーター)

1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。
著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。『クレア』『翼の王国』『ビックコミックオリジナル』でも連載を持つ。泉麻人さんとは『東京ふつうの喫茶店』(平凡社)などでダッグを組んだ。