ほっとWebHOME > 泉麻人の東京深聞 > 新橋から出るナイスな路線バス<墨田区内循環バス>

2018年(平成30年)02月14日(水曜日)

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新橋は昔から都バスの重要な拠点だった。子供の頃は、この駅前から新宿を通って鷺ノ宮や大泉学園まで行く長距離路線があって、落合の方に住んでいた僕は何度か乗ったことがある。いまどき西の郊外へ行く路線はなくなってしまったけれど、ちょっとおもしろい路線が2つある。まずは、築地の市場との間を循環している<市01>系統。これに乗って、場内の店でウマイ朝飯を食おう…と、午前9時に新橋の駅前へやってきた。
 銀座口に出て、1番乗り場の停留所に目をやったとき、あ、しまった!と思った。<本日 市場休場>と赤字の告知が出ている。この日は1月なかばの水曜日、後で知ったことだが、水曜はけっこう臨時休業日にあてられていることが多いのだ。
 目当ての<築地中央市場>行というのは走っていないが、ほぼ同じコースを行く<国立がん研究センター>行のバスはかなり頻繁に出ている。これに乗って、ともかく市場まで行ってみることにしよう。
 外堀通りに出たバスは、蓬莱橋の交差点から海岸通りに入る。ここで注目したいのは車窓の左手、サイコロを積み上げたようなユニークな格好のビルが見える。黒川紀章氏が70年代初めに手掛けた中銀カプセルタワービル。当初は銀座景色のなかで浮き上がっていたが、年季が入ったいまは"なつかしい近未来ビル"とでもいうべき、不思議な趣きがある。
 さらに、そのちょっと先の浜離宮前バス停横には、汐留から市場へ行く貨物線が通っていた時代の踏切が残されている。
 新大橋通りぞいの築地市場正門前でバスを降りた。ま、ここでも市場はすぐ目の前なのだが、開場時の築地中央市場行のバスは正門から場内まで入っていくのだ。場内通路の一角の停留所で降りて、プロ(河岸業者)っぽい気分でアプローチしたかったのだが、しかたがない。豊洲に移る前に余裕があったら、改めて乗ってみたいと思う。
 正門の前には、閉場と知らずにウッカリやってきてしまった外国人観光客のグループが浮かない顔して佇んでいたが、なかには入っていけるようで、ずんずん場内へ歩いていく集団もいる。
 ターレットと呼ばれる小型運搬車やバイクが走っていない場内の景色は寂しいが、歩きやすいことは確かだ。目当てにしていた寿司屋やフライの洋食店が並ぶ筋も大方シャッターが閉まっているけれど、観光客相手に開けている店も数軒ある。
 アジア系の観光グループの後について、場内の水神にお参りして、外に出た。場外の店は相変わらずの盛況だったが、ここまで来たら、昔から贔屓にしている焼き鳥丼の店を覗いてみたい。晴海通りに出た所にある「ととや」という店、閉場日の午前9時台だから、なかば期待しないで行ってみたら、なんと営業していた。
 炭焼きした鶏もも肉がたっぷり載っかった、ウナ重みたいなタレの味も格別な焼鳥丼をかっこんで、新大橋通りのバス停(国立がん研究センター前)から再び<市01>のバスに乗って新橋駅前に戻ってきた。次に乗るのは<業10>系統、とうきょうスカイツリー駅前行。ちなみに、先の<市01>の市は無論"市場"の意味だが、こちらの<業>は東京スカイツリーができる以前の駅名"業平橋"に由来する。

築地にある波除稲荷神社にて参拝。

  • 本日のスタート地点。新橋駅の都営バスで出発!

  • 築地市場が開場している時は、ここが停留所。

  • もも肉5枚、ボン尻1枚というボリュームたっぷり!「ととや」の焼き鳥丼。

2018年(平成30年)02月14日(水曜日)

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昔ながらの街並みに、新しい文化が融け込む街“銀座”。

 とうきょうスカイツリー駅前行のバス、夜の8時以降は<市01>と同じ1番乗り場出発なのだが、日中の乗り場は外堀通りを渡った向こう、銀座並木通りへと続く横道の一角にある。ここがちょっと裏町の停車場っぽくていい。
 新橋から210円の普通運賃で東京スカイツリーまで行ける、魅力的な観光路線ともいえるが、もう1つ、唯一銀座の目抜き通りを走る路線バスでもある。
 銀座六丁目のGINZA SIXの向かい、ユニクロの前にこの路線のバス停が立っている。ここで降りて、まずちょこっと銀ぶらを楽しもう…というのが"市場で朝飯"の次のプランだった。が、乗ったバスは銀座(中央)通りの方へは行かず、土橋から外堀通りに入って、リクルートのすぐ先の銀座西六丁目の停留所に停まった。そう、銀座通りの方を走るのは夜の8時以降の便だけなのだ。ここ、銀座の目抜き通りではないけれど、中心地といっていい場所である。また「西六丁目」というのは昭和30年代以前の旧町名の名残なのだ。クラシックな銀座電通ビルの脇から交詢社通り、並木通り、みゆき通りへと歩いて、開店まもないGINZA SIXに入った。銀座(東京)というよりもむしろ、香港あたりの高級ブランドモールを思わせる館内をそぞろ歩いて、松坂屋時代から屋上に君臨する商売の神、靍護(かくご)稲荷を参拝。本日は午後から雨予報の出た曇天(この連載のお約束!)ながら、北方にこれから向かうスカイツリーがぼんやり霞んで見える。
 軽い銀ぶらを終えて、晴海通りの三越横の銀座四丁目停留所から再び<業10>バスに乗車した。

夜8時以降の便だけこの銀座通りを通る。残念ながら時間外。

  • 松阪屋跡地にできたラグジュアリー感漂うGINZA SIX。

  • GINZA SIXの屋上にある靍護稲荷を参拝。

  • 銀座といえばここ! いつも観光客たちの人で賑わっている。

バスの車窓から見える東京スカイツリーを求めて。

 朝方歩いた市場の北側を過ぎて、勝鬨橋を渡ったバスは晴海から豊洲へと進んでいく。すっかり新市街の雰囲気になった豊洲から湾岸の裏町風情漂う枝川の住宅街をぬけて、三ツ目通りに入ると、後はずっと北上、やがて木場に差しかかった。
 永代通りの交差点を過ぎると右手に見えてくる木場公園の広大な緑地は、昭和40年代頃まで材木の貯木池だった所である。この一角にある東京都現代美術館も、この路線バスでアプローチできる観光スポットなのだが、長らく修復工事中で閉館している。
 この辺から車窓の右前方にスカイツリーが垣間見えるようになってくる。菊川の駅前を過ぎると、立川の界隈はまだ昔の下町風の素朴な町工場がちらほら見受けられる。このまますんなり終点まで乗ってしまうのも芸がないので、亀沢四丁目で最後の途中下車をした。すぐ手前の交差点に<北斎通り>の表示板が出ているが、この道を入っていくと、「すみだ北斎美術館」がある。
 北斎の美術館に入る前に、ちょっと手前に木立ちが見える「野見宿禰神社」に立ち寄った。ノミノスクネジンジャと読むこの難読の神社、野見宿禰とは「日本書紀」にも伝えられる相撲の神様で、この隣りに部屋があった初代高砂が明治18年に創建したとされている。力士像のような派手なオブジェはないものの、歴代横綱の名を刻んだ石碑が置かれている。時節柄、つい"日馬富士"の名前の所に目が行ってしまった。

歴代横綱の名前を刻んだ石碑。モンゴル人の名前が増えている。

  • バスの車窓から望む東京スカイツリー。

  • 葛飾北斎生誕の地としても知られる北斎通り

  • 元津軽家上屋敷跡に、相撲の神様として野見宿禰を祀った野見宿禰神社。

2018年(平成30年)02月14日(水曜日)

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2年越しで墨田区内循環バスを完全制覇!!

 「すみだ北斎美術館」は、北斎の生誕地のすぐそばに建てられている。銀色に輝くアルミパネルの建物は、一見"未来科学系ミュージアム"のイメージだが、じっと見ていると、どことなくあの有名な"神奈川沖浪裏"の高波を思わせるところもある。
 この数年、ちょっとした北斎ブームだから、平日とはいえ館内はけっこう人がいる。僕は、小中学生の頃"切手(マニア)少年"だったので、葛飾北斎の作品は「神奈川沖浪裏」をはじめとする「富嶽三十六景」の何点かが図案に採用された<国際文通週間>の記念切手でまず親しんだ。そういった代表作は常設展示コーナーで眺めることができるが、この日は開館1周年を記念して"めでたさ"をテーマにしたコミカルな七福神や祝祭モノの作品が企画展示のコーナーを飾っていた。
 そして、作品とは別に目に焼きついたのが、晩年の北斎を象った等身大フィギュア。娘のお栄を前に寝床で絵筆を執る作業風景を描いたものなのだが、実にリアル(時折手が上下に動いたりする)にできている。コレは必見!
 ここに立ち寄ったのは、この周辺を走っているコミュニティバスに乗りたい、という意図もあった。美術館の目の前に停留所のあるこのバスは、連載第1回で<北東部ルート>と<北西部ルート>に乗車した<墨田区内循環バス>の<南部ルート>。パープルカラーのこのバスに乗ると、3ルートを網羅したことになる。
 小さなバスは、隅田川べりの旧安田庭園、両国国技館の前を通って、吉良邸や勝海舟生誕地の方をぐるりと回って、さっきの野見宿禰神社の東方を北進、吾妻橋の方から東京スカイツリーの東口、押上駅前のターミナルに到着した。
 そう、2年前の初回はここからスタートしたのだ。読者の皆さん、大東京のらりくらりバス遊覧を今後ともよろしくお願いいたします。

連載初回と同じスカイツリーの前でパシャッと。

  • 北斎の生誕地のすぐそばに建てられている「すみだ北斎美術館」。

  • 美術館の前には大人も子供も遊べる近未来的な公園。

イラスト:なかむらるみ

PROFILE

泉麻人(コラムニスト)

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。
近著に『僕とニュー・ミュージックの時代』(シンコーミュージック)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)など。

なかむらるみ(イラストレーター)

1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。
著書に『おじさん酒場』(亜紀書房)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。『クレア』『翼の王国』『ビックコミックオリジナル』でも連載を持つ。泉麻人さんとは『東京ふつうの喫茶店』(平凡社)などでダッグを組んだ。