今月の街先案内人

イラストレーターとして多忙な日々を送り始めた27年前に、鵠沼海岸に引っ越したそうです。湘南や江ノ島などメジャーな海と隣り合わせながら、佇まいを変えずに静かなるパワーを維持している街、鵠沼海岸の魅力をお話いただきました。

世代が融合して新たな魅力が生まれる“変化の街”

 イラストレーター、『タモリ倶楽部』のソラミミスト、ミュージシャンなどマルチな才能を発揮する安齋肇さん。さらには、みうらじゅん氏とともに各地の魅力を紹介するユニット「勝手に観光協会」を結成。土地の隠れた魅力発見レーダーを持つ安齋さんのホームタウンは鵠沼海岸。27年前に東京から移り住んだのだそう。そのきっかけは何だったのでしょうか。

「フリーになって仕事に忙殺される日々が続いていて、ちょっと東京から脱出したくなりました。そのとき、海の近くがいいなと思って鵠沼海岸にしたんです。当時は別荘地で、土地を贅沢に使ったお宅ばかり。ゴルフの練習ができる芝の庭や、大きな松の木がどこのお宅にもありました。企業の保養所もたくさんあって、夏は子どもが浮き輪をかかえて水着で海に向かう姿も見かけましたね。潮の香りがして波の音がある。個人的にはすごく落ち着けましたよ」
 鵠沼海岸は日本初の別荘地で、「松が岡」という町名も各邸宅に松があったことからきているようです。


「ここは都会に近い海岸で、東京はもちろん、アメリカ、ヨーロッパなんかの若者文化を受け継いでいると感じますね。ちょっと軽いノリで、下北沢のカルチャーっぽいものもある。普通に小さな商店街があって、住んでいる方々が生活を楽しもうとしている街だと思います」
 確かに付近の江ノ島、湘南、茅ヶ崎などは観光地の要素が強く感じられますが、鵠沼海岸は生活する人の息吹が感じられました。
 例えば、商店街の花屋さんは奥さんの趣味の編み物も販売し、さらには息子さんのためでしょうか、法律相談の看板まで掲げています(笑)
他にも、お肉屋さんが、客のニーズに応えてスーパーのようになっていたり、3人しか座れない個性的な蕎麦屋さんが開店されたりと、新しいものを受け入れる懐の深さが見えました。老舗も変化を怖れていないように見えます。

ここ「Kugenuma辻庵」は僕のホームグランドのようなもの
ここ「Kugenuma辻庵」は僕のホームグランドのようなもの。終電で帰ってきても寄りたくなっちゃう。お酒もご飯も充分なのに、また食べて飲む。店の出禁はなくても帰宅後、家で出禁になることもあります(笑)。
鵠沼海岸の飲食店は楽しいから、ベロベロになったらもったいない
鵠沼海岸の飲食店は楽しいから、ベロベロになったらもったいない。記憶をなくさないように意識をキープしているんです。つまんない飲み会はすぐベロベロになっちゃいますけどね。
 安齋さん曰く、世代が上手に融合して、新たな魅力が生まれていく街なのだとか。
「地元愛に溢れた人が多いから、商店街が死んでいないのも特徴的だと思いますよ」

引きこもりからの脱出。オフモードで違うスイッチが入る

「実は僕20年間引こもってて、この辺りでは寿司屋にしか行ったことなかったんです」
とはいえ、外食をしなかっただけで、自宅の庭で友人らとバーベキューを楽しんだり、商店街で買い物して海へ行ったりと、鵠沼ライフ自体は楽しんでいたそうです。そんな安齋さんが唯一通っていた寿司屋で、地元生まれのプロサーファーKさんと運命の出会いを果たします。
「地元の店は、常に常連が盛り上がっていたから、怖くていけなかったんです。そんな話をKさんにしたら“面白い店があるよ”と、街一番の古いバーとか、つまみが驚くほど美味い店なんかに連れ回してくれました、一緒に新しい店も含めて10軒くらい行って、彼が街のルールを教えてくれた感じでしょうか」
 そんな住みなれた鵠沼を引っ越すことになったきっかけは、悲しいことに大好きな大家さんが亡くなってしまったから。町会費の支払いから玄関の掃除までしてくれた大家さんは90歳。


亡くなる直前までお世話になっていたのだそう。
「大家さん、寿司屋の大将、サーファーのKさんがいなければ、今はないですね。ここには近所の楽しさがあります。職業や年齢ではなく、親戚と一緒にいるような安心感を得られる貴重な場所なんです」
 安齋さんは今も月に何回か、この街を訪れているのだとか。安齋さんの見立てでは終電で降りる人数が倍以上に増えたとのこと。調べたところ、実際に藤沢市の人口は約1.5倍に増加していました。
 地域活性化という大仰なものではなく、地元を愛する人たちが生活を楽しむために自分たちの街をつくる。そんな理想のサイクルを実現した街なのかも知れません。

「海が近いからか、僕にとっては何か違う“スイッチ”が入る街なんです。オフモードでバックギアが入るようなイメージ、しかもすごいスピードで走ります(笑) なかなか離れられませんね」

この辺りは大きく豊かな別荘地だけど軽井沢のような避暑地じゃないんです
この辺りは大きく豊かな別荘地だけど軽井沢のような避暑地じゃないんです。手軽に夏を楽しむ場所、昭和の夏休みって言葉がシックリくる。気分を変えてリラックスするにはピッタリです。
商店街では古くからある店と並んで、どんどん新しい店ができています
商店街では古くからある店と並んで、どんどん新しい店ができています。「何かやりたい」と思っている人が自由に街に入ってこられる。ちょっと軽いノリ、下北沢のカルチャーっぽいものも感じます。

写真:ボクダ茂

 
安齋肇
Myprofile
安齋肇(あんざい・はじめ)

イラストレーター/デザイナー。
1953年東京都生まれ。JAL「リゾッチャ」のキャラクターデザインや、NHK「しあわせ ニュース」のタイトル画を手がける。また、ユニコーンや奥田民生ツアーパンフレットのアートディレクション、絵本「WASIMO」、作品集「work anzai」、ドローイング集「draw anzai」を出版。テレビ朝日系「タモリ倶楽部」空耳アワー、NHK BSプレミアム「笑う洋楽展」などに出演中。展覧会やナレーション、バンド活動も行っている。
Information

 【空耳人生 友の会】
 公私ともに関わってきた友人を毎回ゲストに迎え、その “空耳な人生”の極意をアツくユルくお届けする初のトークイベント。
 TORANOMON LOUNGEにて隔月開催中! 第二回は渡辺祐篇・2月13日(金)、第三回は谷田一郎篇・4月17日(金)です。
 http://t-l.jp/event.html


 【WASIMO】
 宮藤官九郎さんとの原作絵本「WASIMO」(小学館)がアニメになりました。「わしも-wasimo-」NHK Eテレで 毎週月・火曜の午後6時より放送中。
 また、絵本の続編「WASIMO 2」が3月に発売予定!
 http://www9.nhk.or.jp/anime/wasimo/

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