担当者はどんな人かしら
残念ながら、筆洗子は担当を退くまで素性をあまり明かさない伝統があるそうで、お教えできませんが、五十二歳、論説委員とだけお答えいたします。本来、社説を執筆するのが論説委員の仕事ですが、自分は筆洗専門で社説を書いた経験は残念ながらありません。二〇一三年十月から筆洗を書いています。

テーマはどう決めるの?
大げさではなく、朝、起きた瞬間から、その日、何を書くかで苦しんでいます。本日はこれしかないという大きな事件や問題発覚があったときはすんなりと決まるのですが、そういう日は一年間でも、そうはありません。テーマが決まらぬ苦しみで、自分では意識していないのですが、同僚によると「帰りたい」「もう無理だ」と騒いでいるそうです。

 歴代の筆洗子の中には、会社近くの神社の木に頭を打ち付けて、ひらめきを待ったとか、トイレで手を洗い続けていたなど、ちょっと怖い伝説も残っていますが、気持ちは分かります。

 結局、テーマはその日のニュース、発言から、面白いとか、腹が立つとか、悲しいという感情が一番、動かされたモノを選ぶようにしています。感情の入りにくいテーマではやはり読者の感情にも触れない、つまりは共感は得られないということになりかねないからです。

 テーマが決まるのがだいたい午後三時ぐらいです。

1本にかかる時間は?
書くテーマによって違います。何でも知っているかのような顔をして書いていますが、得意、不得意もあるし、子どもが犠牲になった事件や、すとんと胸に落ちない政治の展開などは切り口や書き方に迷って、筆がどうも進みません。もっとも、締め切り時間もありますので、どんなに遅くても午後九時半には書き上げるようにしています。

ルールを知りたいわ
段落を区切る「▼」は必ず五つ、全体の字数は五百五十五字。最終行は二、三文字空けるのがルールです。各紙のコラムニストには「▼」の位置をそろえる方もいらっしゃいますが、自分の場合は一切、考えません。一度、試してみたのですが、紙面が何となく堅苦しく見えてしまい、それ以来やっていません。元日用に五つの「▼」を景気のいい「右肩上がり」になるよう計算して書いた経験もありますが、手間の割に、誰も気がつかなかったということもありました。

何かこだわりは?

新聞社は取材の方法や記事の書き方などはきちんと教育するのですが、不思議とコラムの書き方は「好きなように好きなことを」としか教えてくれません。芝居の書き方を勉強してきたのですが、ある劇作家に地面にある小さな石を想像しなさいと言われたことがあります。その石の下をどんどん掘っていくと、次第にその全貌が見えてくる。

 実は小さな石ではなく、とんでもなく巨大な怪物だった、とか。最初から怪物がいますではなく、怪物にはおよそ見えない小石から書きだし、観客をわくわくさせ、印象づけることができるというわけです。大切なことを最初に書けと教えられた、新聞記事とは正反対。これに影響を受け、筆洗も、本来のテーマとはまったく無関係にみえるマクラから書きだしています。よく「最後まで読まないと内容が分からない」など苦情をいただきますが、最後まで読んでいただく工夫でもあります。



この記事は、2015年10月15日 東京新聞に掲載されたものです。

チョウカンヌ

「チョウカンヌ」プロフィール

東京新聞の次世代研究所で生まれたキャラクター。身も心も新聞でできていて、いろんなことに興味津々。よく「顔が広いですね(面積的に)」と言われ、自分でもそこは気に入っている。夢は東京新聞の公式キャラクター。「ユウカンヌ」という名前の妹がいる。

次回は

「東京新聞読者セミナー」を
ご紹介するわ。