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3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

山崎ナオコーラさん
(やまざき・なおこーら)

作家。リアルな登山や旅行は2歳児との暮らしの中ではなかなか行けず、遠出はもっぱら本の中でだけ。
山崎ナオコーラ

新天地で開かれる道

〔1〕イサク・ディネセン著『アフリカの日々』(横山貞子訳、河出文庫・一五六六円)は、北欧の作家がアフリカでコーヒー農園を経営していた頃の思い出を綴(つづ)ったエッセイだ。地元の少年カマンテが登場したところから一気に引き込まれた。「白人から見た黒人」という切り口の描写もあるが、作者が自由闊達(かったつ)で活力に溢(あふ)れた人で、他人に真正面から向き合っている感じがあり、地元の人ひとりひとりの魅力を丁寧に書き上げているので、人種のカテゴライズがあまり気にならず、「新天地での出会い」にまつわる美しい文章を純粋に楽しめる。最後は経営に失敗してアフリカを去るのだが、アフリカの人々との出会いがイサク・ディネセンという大作家を生んだことは間違いなく、「場所の移動が文学を作るのだ」ということを確認できる。 最近、書店員の夫が、三歳になった子どものために絵本をしょっちゅう買ってくる。絵本は、もちろん子どもも喜ぶが、大人も「大人っぽい読解」で楽しめる。

〔2〕ショーン・タン『アライバル』(河出書房新社・二七〇〇円)は、文字のない絵本で、かわいらしい生き物が出てくることもあって子どもでもさらりとめくれるが、移民がテーマになっており、大人にとっては深く考えざるを得ない作品だ。圧政、奴隷制度、内戦、全体主義……、人々は様々(さまざま)なものに苦しんで祖国を離れ、新天地を目指す。移動には不安や苦しみが伴うが、出会いもあり、あたたかな人情に助けられて道が開ける。ラストでは、移民として住み始めた子どもが新天地に慣れ、新しくやってきた移民のお姉さんに道案内をする。

〔3〕田島征三『とべバッタ』(偕成社・一五一二円)はバッタが主人公の絵本だ。カマキリやカエルなどの敵から身を隠して生きていたバッタだが、ある日、隠れるのが嫌になり、堂々と石の上に出る。敵が現れたら跳び上がり、自分に羽があると気づいてさらに遠くへ飛んでいく。序盤に、仲間のバッタの体がばらばらになっていたり、噛(か)み砕かれていたり、グロテスクな絵が結構あるのだが、子どもは平然と、「食べられちゃったね」 自然の摂理を受け入れてページをめくる。最終ページには、主人公のバッタとピンク色のバッタが顔をつき合わせている絵がある。おそらく「新天地で恋も生まれた」という表現だろう。子どもはこのページを開くといつも、「お友だちになったんだね」 とバッタたちを指さす。恋人も友だちもそんなに差はないと思うので、「そうだね」 私は頷(うなず)く。 いつか、私も新天地へ行きたい。(作家、エッセイスト)
  • 『アフリカの日々』
    イサク・ディネセン 著
    横山 貞子 訳
    (よこやま さだこ)
    (河出文庫・1,566円)

  • 『アライバル』
    ショーン・タン 著
    (河出文庫・2,700円)

  • 『とべバッタ』
    田島 征三 作
    (偕成社・1,512円)

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