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3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

栗原裕一郎さん
(くりはら・ゆういちろう)

評論家。息子は7カ月になりました。ハイハイを始めたと思ったらあれよと行動範囲を広げて破壊行為を。
栗原裕一郎

音楽史 引っ張るリズム

 メロディ、ハーモニー、リズムの三つが音楽の主要な要素であると言われる。現在もっとも重要な要素はどれか。
 それはリズムだと、〔1〕imdkm(イミヂクモ)『リズムから考えるJ-POP史』(ブループリント・1,980円)は宣言する。
<日本のポップミュージックをめぐる状況を改めて一瞥(いちべつ)すると、そこに浮かび上がるのは「リズム」をめぐるアプローチの劇的な変化である>
 そんな確信のもと、1990年代以降約30年におよぶJ-POPの歴史を「通史」を退けてたどり直してみせた、デビュー作にふさわしい野心的な試みである。野心的なだけでなく、グローバルな視座に立てばあってしかるべきアプローチなのだ。
 小室哲哉から最新のヒップホップまでが分析の俎上(そじょう)に載せられるが、平成以降の到達点として最後に論じられるのは、宇多田ヒカルである。宇多田の最新アルバム『初恋』は、リズムの面でも極めて高度な達成を遂げながら、大衆性を獲得することにも成功しているからだ。
<『初恋』は「Automatic」と同じようにJ-POPを塗り替える(あるいは、終わらせうる)作品である>
 宇多田は『初恋』を作るにあたり、クリス・デイヴという米国のドラマーを招いた。クリスは現在のジャズ・シーンを考えるのに最重要人物の一人である。
 〔2〕原雅明『Jazz Thing ジャズという何か』(DU BOOKS・2,420円)は、この十数年ほど目まぐるしい変化と発展を続けているジャズについて、前史的な縦の流れと、横の広がりに包括的な見通しを与えた一冊である。今、いちばん活(い)きがいい音楽ジャンルは、意外にもジャズなのだ。
 そして、近年のジャズの急激な展開を司(つかさど)っているのは、もっぱらドラムとベース、つまりリズムの革新である。宇多田の新譜だけでなく、先鋭的J-POP全般に、ジャズにおける目下の改革は影響を及ぼしている。
 進化が止まり歴史化したと思われていたジャズの更新を後押ししたのはヒップホップだ。輸入当初は駄洒落(だじゃれ)だのオヤジギャグだのと嘲笑されたラップも、いまやメロディを駆逐する勢いでポップミュージックを支配するに至っている。
 〔3〕矢野利裕『コミックソングがJ-POPを作った-軽薄の音楽史』(Pヴァイン・2,310円)は、「新しい音楽は笑いとともにやってくる」という理念のもと、川上音二郎の「オッペケペー節」から昨今のラップにいたるまでの邦楽の歴史を、大衆音楽が絶えずまとってきたノベルティ性(新奇さ)に着目し一気通貫してみせる。矢野もまたリズム歌謡などリズムにページを多く割いている。その共振が面白い。(評論家)
  • 『リズムから考えるJ-POP史』
    imdkm(イミヂクモ)
    (ブループリント・1,980円)

  • 『Jazz Thing ジャズという何か』
    原雅明
    (DU BOOKS・2,420円)

  • 『コミックソングがJ-POPを作った-軽薄の音楽史』
    矢野利裕
    (Pヴァイン・2,310円)

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