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3冊の本棚

文章のプロが毎回テーマに沿って、3冊の本をセレクト。
作家という書き手の視線で選ばれた本の魅力をご紹介いたします。

栗原裕一郎さん
(くりはら・ゆういちろう)

評論家。息子は7カ月になりました。ハイハイを始めたと思ったらあれよと行動範囲を広げて破壊行為を。
栗原裕一郎

女性差別の構造と闘う

 田嶋陽子に再評価の動きがあると知り、へーっと記憶を巡らせたら、バラエティー番組で怒っている姿が浮かんだだけだった。フェミニストだということくらいは知っていたが、見流していたせいで、何を言っていたかまるで覚えていないのだった。
 このたび復刊された〔1〕『愛という名の支配』(新潮文庫・649円)は、1992年に出版された田嶋の主著だ。解説を作家の山内マリコが書いている。山内が再評価の発火点になったようで、共鳴した柚木麻子と『エトセトラ』というフェミマガジンの責任編集を務め、田嶋の特集を組んだりもしている。
 一読して、穏当な認識と主張が多いなという印象を受ける。「ええっ、論拠は?」とびっくりする箇所もあるものの、現在では、男も「まあ、そうだよね…」とうなずく内容が大半ではないか。約30年の間にそれなりに理解が進んだということだが、この30年間、田嶋は孤独だったということでもある。田嶋はテレビというメディアに埋もれたのだ。
 〔2〕伊藤春奈『「姐御(あねご)」の文化史』(DU BOOKS・2,420円)は、とりわけ女性への抑圧の強い日本にだって、ずっと昔から、力強く自立したかっこいい女性である「姐御」がいたのだと、主に映画に描かれた女傑とそのモデルを発掘紹介していく。伊藤は「姐御」の条件の一つに「女性の正当な怒りの言葉である『啖呵(たんか)』を武器に闘う」ことをあげている。その伝でいけば、田嶋も「姐御」と呼ばれてしかるべきだ。
 「『女は決して出しゃばらない』というやくざ映画の鉄則を破」り、啖呵を切り闘う女博徒(ばくと)を主人公にした『緋牡丹(ひぼたん)博徒』シリーズをはじめとして、任侠(にんきょう)映画に焦点は多く当てられているのだが、女性理解が時代を超えていた作り手として、作家の長谷川伸(しん)や火野葦平(あしへい)、監督の加藤泰(たい)らが浮上してくるのが興味深い。
 田嶋の基本認識は、この社会は構造として女性を差別するようにできている、というものだ。〔3〕前田健太郎『女性のいない民主主義』(岩波新書・902円)は、女性に不平等を強いるこの「構造」を徹底的に追及する。政治学の教科書的テーマを網羅的に取り上げ、そのいちいちについて「ジェンダーの視点に基づく批判」を展開するのだ。
 この本がユニークなのは、「ジェンダー」を「女性と男性の関係を指す概念」と捉えていることだ。そうすると「ジェンダーと関係がない問題は、原則として存在しない」。ジェンダーに視点を据えると、世界の見え方が一変することに著者は驚く。政治学という学問自体に女性がいないことに驚くのである。(評論家)
  • 『愛という名の支配』
    田嶋陽子
    (新潮文庫・649円)

  • 『「姐御(あねご)」の文化史』
    伊藤春奈
    (DU BOOKS・2,420円)

  • 『女性のいない民主主義』
    前田健太郎
    (岩波新書・902円)

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