東京新聞ほっとWeb > 泉麻人の東京深聞 > 豊州市場から海の森公園へ
  • 2018年(平成30年)12月12日(水曜日)
 ことしの春先、新橋の駅前からバスに乗って閉場が迫った築地市場を訪ねた。その後市場は無事豊洲に移転、いまは同じ停留所から豊洲市場行きのバスが出ている。これに乗って、新しい市場の見学を試みようと思う。
 新橋駅前の銀座寄りの乗り場から、9時41分発の<市01>豊洲市場行きの都バスに乗車した。この時間はもう、河岸(かし)に買い出しに向かう業者らしき客は乗っていないけれど、座った後部座席のあたりには仄かに魚の匂いが漂っていた。これも市場行きのバスならではの風情。バスは築地市場を右に見て、晴海通りを右折して勝鬨橋を渡る。隅田川の下流に完成した築地大橋を走行するトラックの列が垣間見えたが、この路線バスも将来的には向こうの橋を渡るルートをとるのかもしれない。
 晴海のトリトンスクエアの横を通過、春海橋の方へは曲がらずに直進、晴海大橋を渡って豊洲の領域に入った。もう市場はすぐ先だ。
 道が空いているので、時間調整で途中、2、3度バスは停車したが、そのときに言う運転手さんのアナウンスがちょっとユニークだった。「青信号でサクサク来てしまいましたので、発車まで2分ほどお待ちください。申し訳ありません」
 とまぁ、なかなかていねいな運転手さんには違いないのだが、“青信号でサクサク”という表現は珍しい。いまどきのバス業界には割と定着した言い回しなのだろうか?
「ゆりかもめ」の市場前駅の先、南側の正門をくぐった管理施設棟の3階フロアーを起点に水産卸売場棟、水産仲卸売場棟、青果棟といった3大施設を巡回するという仕組みになっている。
 各棟に至る通路は直線ながらけっこう長く、ケータイ電話の歩数計はあっという間に1万歩に達した。巡回する―――とは書いたけれど、一般の見学者はこの3階部に設けられた窓越しに、業者が立ち働く1階部の様子を覗き見るだけ。つまり、最近の工場見学と同じシステムで、現場の臨場感はあまり伝わってこない。ただし、通路際に置かれたターレーに乗って記念写真が撮れたり、セリでやりとりされる“手やり”(売り買いを表わす手サイン)の解説が掲げられていたり、観光客向けのサービスは施されている。京橋の大根河岸や日本橋の魚河岸…通路に陳列された往年の市場界隈の写真のなかにも、他であまり見かけないマニアックなのがある。
深聞1

平日にも関わらず、ツアー観光客の方でたくさんの豊洲市場でした。

  • 深聞2

    JR新橋駅から出発! 豊洲市場へ向かいます。

  • 深聞3

    まず最初に、見学ギャラリーへ。

  • 深聞4

    見学デッキから見られる「野菜や果物を取引する」青果棟

築地の人気グルメから豊洲の絶景スポットをご紹介!!
 ところで、早朝のセリ風景を眺めるわけでもないわれわれの第一の目的は、この新市場での昼めしである。管理棟3階の飲食店の筋で目にとまった「八千代」にまだ10時半という早い時刻ながら入ってしまおう。にわかに増えてきた人波を見て決断したのだが、案の定、僕ら5名が席についてまもなく、外に順番待ちの行列ができた。
 この店“とんかつ”の冠が付いているけれど、エビフライやカキフライなどの魚介系のフライと、もう1つ“チャーシューエッグ”という名物がある。脂身がたっぷりついたチャーシューに2個の目玉焼きをからめた、という賄(まかな)いめしっぽいメニューで、築地時代に味わって、病みつきになった。火曜、木曜、土曜に限定されたメニューのようだが、本日はラッキーにも木曜。こいつはツイている。
 チャーシューエッグとフライ各種を堪能。青果棟の方の店舗街を散策すると、作業衣の「伊藤ウロコ」をはじめ、築地でなじみの店が並んでいる。牛丼の「吉野屋」やカレーの「中栄」…今回訪ねられなかったが、築地場内の人気店のほとんどが、こちらで再営業しているようだ。日本橋から築地、豊洲と続いてきた百年レベルの老舗も何軒かあると聞く。
 外に出て、正門前の通りを豊洲市街と反対の方へ歩くと、やがて富士見橋という新しい橋に差しかかる。豊洲市場――灰色のスクエアな棟が並ぶ佇まいは、幕張の展示パビリオン街のような無機的なものを感じたが、この橋際から覗き見える市場の裏方は、妙な言い方だが従来の市場らしい。橋詰の反対側には真新しい遊具を置いた豊洲ぐるり公園というのがあって、東京湾の向こうに望む都心の景色はなかなかの絶景だ。フォトジェニックなスポットとして今後注目されるに違いない。この橋、富士見―――というくらいだから、富士山が眺められる日もあるのだろうか。
 渡った向こうには、ユニクロの看板を掲げたビル(倉庫かな? )があり、その先に銀座の木村屋(総本店)の工場があった。木村屋のパン工場は、僕が築地の会社に勤めていた80年代前半、本願寺の裏の方に建っていたはずだが、やはり、築地→豊洲という流れがあるのかもしれない。
深聞5

曜日限定の名物「チャーシューエッグ」

  • 深聞6

    魚介類のフライはサクサク、ボリューム満点!

  • 深聞7

    豊洲市場から歩き、全面開園した「豊洲ぐるり公園」へ。

  • 深聞8

    取材時はあいにくの曇り空でした…。朝から夜まで楽しめる絶景スポット!!

海と緑に囲まれた『海の森公園』の現在と未来。
 さて、こちらに歩いてきたのは、有明の先の東京テレポート駅の前から、こんどは「中央防波堤」行きのバスに乗ろうというプランなのだが、有明テニスの森のあたりで、「東京テレポート駅」行のバスを見つけてこれに乗り込むと、台場のフジテレビの前から船の科学館の方をぐるりと迂回して、ようやく東京テレポートの駅前へやってきた。
 駅前のロータリーの端っこから、ほぼ1時間に1本程度の数少ない「中央防波堤」行きの都バスに乗る。ちなみにこのバスの系統番号は、防波堤の“波”を使った「波01」。ヴィーナスフォートの横を通って、青海3丁目の倉庫街をぬけると、東京湾の長いトンネル(第二航路海底トンネル)をくぐって、中央防波堤と呼ばれる埋立島のエリアに入る。
 環境局合同庁舎の先の終点・中央防波堤でバスを降りると、すぐ目の前にペットボトルのリサイクル工場があって、ラベルやフタを付けたまま潰されて凝縮されたペットボトルの固まりが山積みされていた。
 僕は以前、環境局の合同庁舎ロビーに展示された昔の清掃局時代のゴミ箱なんぞを見物しにきたことがあったけれど、今回の目的はこのエリアの北側に整備中の「海の森公園」の散策。都の関係者の方に敷地内を案内してもらえることになったのだ。
 建設中の橋(中潮橋)の傍らから、足もとの悪い道を進んでいく。向こうには、すでに大方の樹木が植えこまれた緑の小山が広がっている。ここはひと昔前まで、いわゆる“ゴミの山”だったところだが、もはやその面影はない。
 「『海の森』は昭和48年から昭和62年にかけて1230万トンのごみと建設発生土などを交互に埋め立てるサンドイッチ構造で造成した、約149ha(日比谷公園の約9個分)の埋立地です」
 と、東京都港湾局発行のリーフレットにあるが、それほどの規模がある緑地なのだ。まだ路面が舗装されていない箇所もあるので、なんだか子供の頃の多摩あたりの里山に紛れこんだような気分である。植えこまれた樹木はクロマツやスダジイ、タブノキなど潮風に強い種類を中心に、ケヤキやエノキ、シラカシ、クヌギ、といった武蔵野の雑木林らしいものもある(各樹木に名札が付けられている)。
 そして、木立ちの間に見える芝生の道はどうやら東京オリンピックの馬術クロスカントリー競技で使うコースらしい(これは規約上、まだ写真でお見せすることはできない)。さらに、この公園際の運河がカヌー競技のコースに設定されている。
 雨水が溜まりやすい窪地に造られた池にはギンヤンマのヤゴやゲンゴロウの仲間までいる…。と伺って感心したが、その池の脇道を上って園内で最も標高の高い一角(海抜40メートルというから、ほぼ東京の山の手レベルだ)に立つと、運河の向こうに東京ゲートブリッジがよく見える。2年後の東京オリンピックの折には、この「海の森公園」からのドローンなどを駆使した中継映像を何度も観ることになるのだろう。
  • 深聞09

    たくさん積まれたペットボトルの固まり。

  • 深聞10

    東京都の職員の方に案内されながら、海の森公園へ。

  • 深聞13

    東京オリンピックの水上競技場。現在整備中。

イラスト2
「泉麻人絶対責任編集 東京深聞」が待望の書籍化!
「東京深聞」過去2年分(第1話~第24話)が東京新聞の書籍「大東京のらりくらりバス遊覧」として、全国書店にて販売中!
▼▼▼
PROFILE
  • 泉プロフィール
  • 泉麻人(コラムニスト)

    1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。
    近著に『僕とニュー・ミュージックの時代』(シンコーミュージック)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)など。

  • なかむらるみプロフィール
  • なかむらるみ(イラストレーター)

    1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。
    著書に『おじさん酒場』(亜紀書房)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。『クレア』『翼の王国』『ビックコミックオリジナル』でも連載を持つ。泉麻人さんとは『東京ふつうの喫茶店』(平凡社)などでダッグを組んだ。

バックナンバー

上へ戻る