東京新聞ほっとWeb > 泉麻人の東京深聞 > イケバスで新たな池袋観光
  • 2020年(令和2年)2月12日(水曜日)
 去年の暮れの頃だったろうか、車で池袋のあたりを走っているときに真っ赤な路面電車のようなバスを見掛けた。これが、「IKEBUS(イケバス)」という電動のコミュニティバスで、2019年の11月27日から運行が始まったらしい。あの独特の格好のバスにはぜひとも乗ってみたい、ということで、池袋からスタートするコースを組んだ。
 東口のパルコの前あたりに乗り場があるAルートのバスに乗車することにしよう。料金は大人200円(子ども100円)だが、何度か乗り降りするかと思うので500円の1日券を買う。10時10分発のバスを待っていると、テレビ番組の撮影クルーがやってきた。いわゆる“街ブラ”モノのロケのようで、レポーターは2、3度顔を合わせたことのある女芸人のAさんなので、あいさつをして一緒に乗り込んだ。
 鮮やかな赤いボディーをしたこのバスをよく見るとフロントの2つの丸いライトの縁にIKEBUSとマツ毛を模したように描かれて、アメリカ漫画のベティー・ブープみたいな可愛らしい顔をしている。そして、冒頭で“路面電車”と表現したが、小さなタイヤが前と後に5個(両側で10個)ずつ付いていて、この辺が電車感を醸し出している。
 派手なのは外観ばかりでなく、車内も向き合ったイスの1つ1つが微妙に違うデザインに仕上げられていて、これはバスによっても異なるらしい。寄せ木細工模様の床も目にとまる。そう、このイケバスのデザイナーはJR九州の車両をはじめとする奇抜な鉄道デザインで知られる水戸岡鋭治氏なのだ。
 「時速19キロのゆっくりした速度で走るんですよ」
 なんていったイケバスの知識は僕のすぐ目の前で席でレポートするAさんや解説役で同乗する広報の方から伝わってくるので、なんだか得したような気分である。
 「黄色いイケバスを見掛けるとシアワセになれるって伝説があるそうです」
 いったいどこから出た伝説なんだ、と思ったが、大方が赤いバスのうち、黄色いバスが数台だけ存在するらしい。確かに珍しい。子供なんかは見つけた瞬間大騒ぎするのだろう。
 さて、バスのルートの方はグリーン大通りから昔の豊島公会堂周辺の再開発地域に入っていって、一旦南下して南池袋公園の方からサンシャインシティの方へ進んでいく。途中テレビクルーは降りていって、若い男女のカップルが乗りこんできた。その次くらいの停留所から乗ったラフなジャンパー姿の老人がちょうど向かい席あたりのカップルを見つけて、唐突にこう言った。
 「台湾か、ニューローメンが一番ウマイね」
 そうか、カップルの会話をよく聞いていると、彼らは台湾からきた観光客なのだろう。それにしてもあの老人、一瞬にして台湾人と見ぬいていきなり「ニューローメン(牛肉麺)」のネタフリをするとはなんだかすごい。
バスは東池袋の新しい豊島区役所の方を回って駅前に戻ってきたが、僕らはそのままバスに乗って、一つ目の停留所・Hareza(ハレザ)池袋で降車した。先に1度通りがかった昔の公会堂と区役所の一帯の再開発エリアだ。
Hareza池袋
 というのは3棟からなる大規模複合ビルと中池袋公園の総称で、ここに劇場や映画館も集結するらしい。
 本格的なオープンはことし(2020年)の夏だというが、劇場をメインにした東京建物Brillia HALL(ホール棟)ととしま区民センターというのがいち早く開館、目の前の中池袋公園に出たスタンドカフェで販売される「2.5次元ミュージカル」のアイドル俳優にちなんだスイーツやドリンクに若い女の子たちが列をなしていた。
 このあたりがやがて、新しい池袋のエンタメ基地になっていくのかもしれない。そう、この一角をうろうろしているときに“幸福の黄色いバス”がやってきた。
  • 深聞1

    JR池袋駅東口にて集合し、赤い電気バス「IKEBUS」に乗って、池袋の街を巡ります。

  • 深聞2

    2019年11月1日にオープンしたばかりの『東京建物Brillia HALL』。ミュージカルなどの舞台やアニメ、サブカルチャーを楽しめる多様な文化の発信基地です。

  • 深聞3

    遭遇すると「幸せになれる」というジンクスの黄色いバスを発見。

ふくろうと繋がりが深い池袋・洗練されたドーム型の大谷口水道タンクへ往く。
 Hareza池袋横の停留所からBルートのバス(黄色ではなかった)に乗車、東上線や山手線の上に架かる池袋大橋を渡って西口へ向かった。
 ランチは駅の西北側ブロック・西一番街に古くからある台湾料理の「茶館」。ニューローメンの老人に触発されたわけではないけれど、店名のとおり、飲茶(ヤムチャ)気分で小皿料理を楽しめる。小さな急須を使って中国茶を本格的に淹れてくれる(急須の上から湯をかけたりするアレ)し、銘柄物の烏龍茶などをボトルキープすることもできる。
 書くのが後回しになったけれど、最近の池袋は「ふくろう」を街のマスコットとしてプッシュしているようで、至るところにオブジェがある。イケバスの停留所ポールの頂きにも可愛らしいふくろうの人形が付いていたし、Hareza前の広場には白いふくろう像、郵便局の前にも黄色いふくろうキャラのポストが置かれていた。西一番街から出てきた駅前に置かれたふくろう像は、大きく羽根を広げて、北海道の熊の木彫りのように足もとでシャケをがっしり捕まえている。バラエティに富んだふくろうオブジェを探して池袋を歩くのもおもしろい。
 さてバス遊覧エッセーとしては、イケバスに留まらず一般の路線バスにも乗りたい。池袋の西口は緑色の国際興業バスの密集地だが、今回乗るのは<池02>系統の熊野町循環。これに乗って、板橋の大谷口に立つ水道タンクを眺めにいこう。バスは要町通りから山手通りに入って川越街道を左折、熊野町バス停の先から左方の横道に曲がっていく。中丸町坂下、南町住宅幸(さいわい)町、幹線道路の奥の裏町風の景色のなかをバスは進む。
 その次の停留所は水道タンク裏。中野通りから続く表通りにも「水道タンク前」というバス停はあるのだが、この「裏」の方からアプローチするのを僕は好んでいる。バス通りと反対の路地を進んでいくと、ドーム型の格好の水道タンク(大谷口給水所)が見えてくる。これ、ひと頃(といっても15年くらい経つか)までは南方の哲学堂近くの野方配水塔と同じ、昭和初めに建設された古めかしい塔だったが、こちらは給水所としてリニューアルされたのだ。その姿はどことなく僕の子供時代のヒーロー、鉄人28号に似ている。
 水道タンク前の広々とした道を北方へ歩いていくと、川越街道を渡った先で長いアーケードの商店街に行きあたる。かつて大山銀座と呼ばれた「ハッピーロード大山」の商店筋だ。東上線の大山の駅横をぬけて旧中山道の方まで続いているこの道が昔は川越街道と呼ばれていたらしい。昭和30年代頃までは沿道に映画館が5、6軒存在したというが、いまは新しい店も増えて、近くオープンするホットヨガの店の看板が目につく。今回は東上線の手前で引き返してきてしまったが、駅の北東側に建つ東京都健康長寿医療センターという病院の前身は、明治時代に渋沢栄一が興して院長も務めていた養護施設の祖・養育院である。
  • 深聞4

    街中の至るところにある“ふくろう”。豊島の街に笑顔があふれますように。

  • 深聞5

    ランチに訪れたのは、台湾料理「茶館」。中国茶と点心の専門店で、本格的な台湾茶葉も楽しめるお店です。

  • 深聞6

    『水道タンク裏』のバス停留所から、大谷口給水所へ向かいました。昭和初期をイメージさせるレトロなデザインに魅了されました。

小茂根にある “2つの遺跡”を巡り、時代背景をたしなむ
 さて、もう1本、ちょっとレアな路線バスに乗車しよう。川越街道の大山の停留所にやってくる<池55>小茂根五丁目行というのは、ほぼ1時間に1本しかない。川越街道から環七通りを左折、石神井川を渡った先から右手の地味な道に入っていく。終点の小茂根五丁目は、桜並木の街路の一角にぽつんと立っていた。こういう都市の秘境めいたバス終点というのは、なんだかそそられる。
 ところで、小茂根(コモネ)というなんとなく耳ざわりの良い町名は、昭和40年代初めに小山町、茂呂町、根ノ上町の3つの町を合わせて誕生したもので、近くに派手な名所があるわけではないが、石神井川岸の丘上に茂呂遺跡、栗原遺跡という2つの遺跡が存在する。
 まずは石神井川沿いに広がる城北中央公園のなかにある栗原遺跡を園の係員の案内でみせてもらった。目につく茅吹きの上屋は、遺跡が発見された昭和30年代以降に造られ(平成年間に復元)たものだが、屋内の仄暗い地面に古代住居の土台らしき穴が確認できる。この周辺で発見された遺跡は旧石器、縄文、弥生から終わりの方は平安時代、というから、かなり長い時代にわたって利用された人気の居住地といっていいだろう。
 川の南岸、都立大山高校の傍らのフェンスに囲まれた林のなかに「茂呂遺跡」の石碑が立っている。こちらは一見して遺跡とわかる復元オブジェの類は設置されていないが、茂呂というのは静岡の有名遺跡・登呂にも似ていておぼえやすい。栗原の方は立教大学の運動場建設時に発見されたそうだが、茂呂の方はなんと中学生が最初に見つけたらしい。
 「昭和26年3月29日に当時中学生であった瀧澤浩氏が、石神井川流域の独立丘陵『オセド山』を南北に貫く栗原新道の東側のり通し断面ローム層中から、黒曜石製石器1点と礫群の露出を確認した
 」
 公園係員からもらった板橋区教育委員会発行の資料にあるが、まぁこの方は単なる通りがかりの中学生ではなく、考古学研究に通じた玄人はだしの中学生だったのだろう。この発見以来、少年たちの間で遺跡掘りがちょっとしたブームとなった…なんて話も聞く。
  • 深聞7

    1時間に1本しかない『小茂根五丁目』行のバス。目指すところは、「城北中央公園」へ向かいます。

  • 深聞89

    旧石器時代から平安時代にわたる複合遺跡。復元された住居は、奈良時代のもので、当時の農民の暮らしをイメージさせてくれます。

  • 深聞09

    茂呂遺跡は、日本の考古学研究史上重要な遺跡として、東京都の文化財に指定されています。

イラスト2
次回から新企画「東京近郊気まぐれ電鉄」が始まります!
4年にわたり連載してきた「大東京のらりくらりバス遊覧」は今回が最終回です。
次回3月11日(水)公開分から、新企画「東京近郊気まぐれ電鉄」がスタートします。
おなじみの泉麻人さん、なかむらるみさんのコンビが、
次回からは電車に乗って、東京周辺の街を旅する「散歩エッセー」をお届けします。
「泉麻人絶対責任編集 東京深聞」が待望の書籍化!
「東京深聞」過去2年分(第1話~第24話)が東京新聞の書籍「大東京のらりくらりバス遊覧」として、全国書店にて販売中!
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PROFILE
  • 泉プロフィール
  • 泉麻人(コラムニスト)

    1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。
    近著に『僕とニュー・ミュージックの時代』(シンコーミュージック)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)など。

  • なかむらるみプロフィール
  • なかむらるみ(イラストレーター)

    1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。
    著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日』(文藝春秋)がある。
    https://tsumamu.tumblr.com/

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